研究概要 |
平成23年度は離散群および離散距離空間の研究を行った。作用素環論の知識を用いることによりCoarse幾何における成果を上げることができた。Coarse幾何学とは空間の大規模一様構造を探求する数学の一分野であり、作用素K-理論とつながりを持っている。私は二つの距離空間におけるCoarse幾何的特性 (1)特性A(Property A) (2)作用素ノルム局在性(Operator norm localization property)について研究を行った。結果として二つの特性が同値であることを証明できた。すなわち一様離散距離空間(discrete metric space with bounded geometry)がもし(1)の性質をみたすならば(2)の性質をみたし、(2)の性質を満たすならば(1)の性質を満たすことを確認した。 ここで上にあげた二つの性質について解説したい。特性AはGuoliang Yuによって与えられた性質で、K-理論における応用のために定義された。Yuはこの性質がCoarse Baum--Connes予想と呼ばれるK-理論で記述される性質を導くことを証明した。もっとも興味深いのは離散距離空間が離散群によって与えられている場合である。離散群についてのCoarse Baum--Connes予想はさらに強Novikov予想という性質を保証している。一方、作用素ノルム局在性という性質はX. Chen, R. Tessera, X. Wang, and G. Yuの四人によって定義された。この概念はCoarse幾何的Novikov予想と呼ばれる性質がある種のエクスパンダーグラフについて成り立つことを示すために用いられた。 特性Aは作用素環的な特徴付けがすでに与えられている。離散群の特性Aと既約C^*-環の完全性は同値である(Anantharaman-Delaroche and Renaultの定理Higson and Roeの定理,そしてOzawaの定理の結論)。一般の一様離散距離空間Xについては一様Roe環C^*_u(X)と呼ばれる作用素環の核型性によって特徴づけられている(Skandalis, Tu, とYu)。核型性は有限次元近似性質によって特徴づけられている(Choi--Effros, Kirchberg)。 本年度の主結果、すなわち特性Aと作用素ノルム局在性の同値性、は一様Roe環の上の有限階完全正値写像を扱うことによって証明された。
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