研究課題
(1)健常犬20頭およびイヌIBDと診断した症例40頭の小腸内視鏡生検サンプルを採取した。(2)採取した小腸サンプルにおけるケモカインmRNA発現量の網羅的解析を行い、複数のケモカインのmRNA発現量がイヌIBD症例において亢進していることを明らかにし、特にフラクタルカインとその受容体であるCX_3CR1に着目した。イヌに交差する抗ブラクタルカイン抗体を用いてELISAを行い、フラクタルカイン蛋白量もイヌIBD症例の小腸で亢進していることを確認した。(3)末梢血中のリンパ球におけるCX_3CR1発現をフローサイトメトリーにて検証した。その結果、IBD症例では、末梢血リンパ球におけるCX_3CR1陽性率が健常犬と比べて有意に高いことがわかった。イヌIBD症例の腸管では、上皮内リンパ球の増加が認められるが、その上皮内リンパ球の浸潤の程度を病理組織学的にスコア化したところ、末梢血リンパ球におけるCX_3CR1陽性率と正の相関を示した。(4)末梢血中に存在するCX_3CR1陽性リンパ球と腸上皮内リンパ球をそれぞれ分離し、フローサイトメトリーにて表面抗原を解析・比較した。末梢血中のCX_3CR1陽性リンパ球は、ほとんどがCD3^+T細胞であり、CD4よりもCD8を発現している細胞傷害性T細胞のほうが多いことがわかった。興味深いことに、腸上皮内リンパ球も多くがCD3^+CD8^+の細胞傷害性T細胞であった。また、腸上皮内リンパ球の半数以上がCX_3CR1を発現していることもわかった。以上の結果から、イヌIBD症例では、腸管におけるフラクタルカインの発現が亢進し、かつ末梢血におけるCX_3CR1陽性リンパ球数も増加しているため、このCX_3CR1陽性リンパ球が末梢血から腸管上皮へ遊走し、上皮内リンパ球になっている可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
現在、犬IBD症例の消化管におけるサイトカイン・ケモカインの発現や、その機能について検討しており、これまでに国際学術誌に4報投稿し、掲載が決定しているため。ただし、イヌIBDにおけるケモカインとPAR-2との相互作用については研究が進んでいないため、今後の課題となっている。
現在、犬の腸管サンプルを用いた免疫染色により、フラクタルカインが腸管上皮細胞で産生されていることを明らかにしている。次の課題として、なぜIBD症例の腸管でフラクタルカイン発現が増加するのか、ということが挙げられる。仮説として、PAR-2の活性化以外にToll-like receptorやNod-like receptorといったPattern recognition reoeptorの活性化により、上皮細胞からフラクタルカインが産生されるのではないかと考えている。そのためin vitroの実験が不可欠であると考えられるが、犬の腸上皮細胞株は樹立されていない。そこで、新生子犬を用いて腸上皮初代培養細胞を作製することを予定している。
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