現代の宇宙像としては、宇宙初期のインフレーションと呼ばれる時期にそれ以前の非等方性の情報が失われ統計的に等方な宇宙が生成される、という宇宙無毛仮説に基づいた認識が一般的である。しかし、近年のWMAP探査機によるものをはじめとした宇宙背景輻射観測により、インフレーション由来の原始揺らぎの解析が進展し、原始揺らぎの統計的等方性についても微細なレベルでの検証が可能になりつつあり、現に等方的等方性の破れが既に報告されている。ここにおいて本研究課題は、インフレーション模型に従来用いられているスカラー場に加え、ベクトル場の存在を考慮した上で、それが与える原始揺らぎの統計的非等方性の性質、その観測的な影響や高エネルギー物理学への示唆について明らかにすることを目指すものである。本研究では、前年度までに構成した、空間的な非等方膨張を特徴とする"非等方インフレーション一様背景宇宙モデル"に基づき、摂動を線形の次数で考慮することによって、原始揺らぎに反映される統計的非等方性の評価を行った。非等方宇宙においては従来の等方宇宙の場合と異なり、重力波と密度揺らぎの力学的自由度が線形次で相互作用をするため、これを適切に扱わなければならず、一般には従来の手法をそのまま適用することが出来ない。しかし本研究では、時刻一定超曲面の与え方を超曲面の3次元的な曲率が零になるようにとることにより、従来の等方モデルに準じた摂動の取り扱いが可能であることを発見した。この手法により、本非等方インフレーション理論が従来考えられてきた(1)密度ゆらぎパワースペクトルの方向依存性の他、(2)重力波パワースペクトルの方向依存性、(3)密度揺らぎと重力波との相関、(4)重力波の直線偏極、といった従来顧みられることのなかった統計的非等方性の特徴を予言することが明らかになった。
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