研究課題
有柄蔓脚類の多くは同時的雌雄同体だが、なかにはそれに加えて小型の雄(矮雄)の出現する種や、純粋な雌と矮雄からなる種もいる。矮雄はごく小さいうちに成長への投資をやめ、繁殖に投資する生活史戦略を持つ個体と見なすことができる。数理モデルによれば、矮雄の大きさは餌環境と他個体の性表現によって決まることが予測されている(Yamaguchi et al. 2007)。この予測を検証するため、文献調査と標本の測定により種ごとの生息環境と性表現、矮雄の大きさのデータベースを作成している。今後、さらに種数を増やしたうえで、共同研究者の作成した系統樹を用いた系統種間比較を行う予定である。沖縄美ら海水族館の協力のもと、ハコエビに付着する蔓脚類の1種ヒメエボシの調査を行った。その結果、矮雄と思われる個体を本種ではじめて確認した。さらに、矮雄と思われる個体は、ヒメエボシがかなり高密度に生息するエビから見つかった。これは既存の理論研究の予測に反する知見である。今後は、組織学的観察により矮雄と思われる個体の生活史・繁殖戦略を明らかにするとともに、生息環境の条件や資源獲得の密度依存性等を考慮することで、高密度条件下での矮雄の進化を説明する数理モデルの作成を目指す。ウミウシやヒラムシなど一部の同時的雌雄同体動物は、交尾相手から受け取った精子の一部を消化し、自らの資源として再利用する。消化された精子が繁殖資源として用いられることを仮定した進化的に安定な戦略モデルを作った。その結果、精子消化があると、精子生産に投資させる資源の割合が高くなることがわかった。これは、精子の一部が消化されて配偶相手の卵生産に用いられ、残った精子がその卵を受精させることにより、繁殖成功の増加に繋がるためであると解釈できる。このモデルは論文化し、Theoretical Ecology誌に発表した。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 79 ページ: 094003-1-094003-13
Sperm as a paternal investment : a model of sex allocation in sperm-digesting hermaphrodites
巻: in press