研究課題/領域番号 |
10J00978
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原口 岳 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 安定同位体 / 炭素放射性同位体 / 食物網解析 / 生食連鎖 / 腐食連鎖 / 食物網カップリング / 植生遷移 / 動物群集 |
研究概要 |
生態系撹乱とその後の植生遷移過程では、食物網に加入する有機物量や堆積リター量・環境構造が変化する。生態系の変化が動物群集にどう影響するのかを理解することは群集生態学・生態系管理の両面から大きな課題だが、その際動物の生存基盤としてのエネルギー源、即ちエサを介した影響を無視することは出来ない。本研究課題の目的は、遷移に伴う生食-腐食連鎖系への炭素供給バランスの変化が食物網構造の変化を通じて捕食者群集に影響を与えることの検証である。クモは主要な樹上捕食者であり、植食者と腐植食者を捕食することから、生食・腐食連鎖の結節点となる。そこで、クモを頂点とする食物網を題材として、撹乱後の遷移過程で捕食者の利用する生食・腐食連鎖由来のエサの寄与率に生じる変化および、寄与率変化が捕食者の生息に及ぼす可能性を検討する。本年度は、主に昨年採集した標本の同定および化学分析情報の統計解析を実施した。 まず、1.炭素放射性同位体の天然存在比(Δ^<14>C)の分析によって、生態系内を流れる炭素の滞留時間という尺度から食物網内の炭素動態を分析した。1はΔ^<14>Cを用いて複数栄養段階からなる陸域食物網の構造を明らかにしようとする初の試みである。この手法によって、腐食連鎖系からのエサとして双翅目の寄与が示された。続いて2.CN安定同位体を用いて、森林生態系に優占するエサ画分の寄与を推定し、遷移に伴うエサ可給性変動と捕食形質の違いがどのようにクモのエサ利用に影響するのか調べた。その結果、遷移過程で双翅目の個体数比率や、クモへの双翅目のエサ寄与率が増大する・林齢の効果を除去した場合に、捕食ギルドと体長がクモのエサを決定する要素として関与することを示した。最後に、3.クモ群集の定量採集により、林齢に応じたエサ群集の変化と、クモ群集の変化に対応が見られるかどうかを検討した。昨年度の解析から、クモの種組成は林齢と対応する一方、クモの捕食ギルド組成は林齢を通じて変化が少ないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は実施計画の通り、主に昨年採集した標本の同定および化学分析情報の統計解析・論文執筆をおこなった。1の内容に関してはOecologiaに投稿中である。また、2.の内容に関しては昨年度中に同位体分析および統計解析を実施した。また、EAFESにて発表を行い、様々な分野の研究者よりいただいたコメントをうけて改善中である。3に関しては、昨年度中に得られた標本の同定をおこなった。3は日本クモ学会・森林学会で発表し、解析上のアドバイスや結果の解釈などについてのコメントをうけた。必要な主たるデータが得られており、一部は論文執筆の段階にあることを考慮すると、進展状況は比較的順調であるものと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
1に関連して、食物網内の14C分布を変化させる因子として遷移に伴う土壌有機態炭素動態の変化を検討出来る。つまり、これまで検討してきた生食/腐食連鎖の別に起因するクモのΔ^<14>C変動以外に、蓄積バイオマスが撹乱によって一度に土壌に加入し、その後徐々に食物網に供給されることによるΔ^<14>C変動が統計的に検出可能だと考えている。2では、現状で捕食ギルド毎の同位体分析数がアンバランスであり、追加分析を要する。3では、現状で種・捕食ギルド組成の解析が完了した。2でクモの体長の違いに伴うエサの変化も検出されたことから、引き続きクモ群集変化を体長分布の変化という尺度から明らかにする。総じて、今年度は主に論文を執筆し、植生遷移過程で地下部からのエサの加入量が増大する・個々のクモが有する捕食形質毎に利用するエサ資源が異なる・エサ組成変化と、捕食形質面でのクモ群集の林齢依存的な組成変化が対応することを示す。
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