研究課題
膨大な数の遺伝子により制御された複雑な細胞生命。そのメカニズムを包括的に理解することを目指して、遺伝子情報を網羅的に解析するオミックスの技術開発が近年急速に進展している。2003年にヒトゲノムが完全解読され、現在ではゲノム解読の高速化・低価格化が注目を集める一方で、その発現産物であるトランスクリプトームやプロテオームを解析するための技術開発が注目されている。申請者は今年、1分子顕微鏡法を応用することにより、単一生細胞内におけるプロテオームとトランスクリプトームを単一分子感度で検出することに世界で初めて実現した。ひとつひとつの細胞では、内在するmRNAとタンパク質は常に乱雑に変動している。こうした細胞のノイズは、多くの生物プロセスの発現に重要であり、細胞の分化や異質化を誘導したり、環境変化に対する生物種の適応度を高めたりしていると考えられている。申請者は、単一分子・単一細胞プロファイリング技術を用いて、この生物の大きな特徴ともいえる細胞ごとの遺伝子発現の乱雑さをプロテオームおよびトランスクリプトームワイドで定量化し、そのゲノムに共通する様々な性質と、その背景にある物理的法則を明らかにした。本研究で構築した技術とその方法論は、2010年のNature Methods誌において、「1分子生物学とシステム生物学とをつなげる」初めて技術であるとして紹介された。つまり、1分子とシステム両方のレベルからの網羅的分子情報を取得できるこの技術は、複雑な階層性をもつ生命の仕組みを分子・細胞相互のスケールから理解できる手法として期待されている。ひとつひとつの細胞にある分子数の確率的変化を絶対感度で捉えることが可能であるため、様々な生物学的問題にも将来的に応用できる可能性を秘めている。
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Science
巻: 329 ページ: 533-538
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