研究概要 |
[研究の動機] 1998年のスーパーカミオカンデ(以下SK)によるν振動現象の確立以降、ν振動測定によってレプトン混合行列はクォーク混合行列と非常に異なる構造を持つことが明らかになった。この違いは現在の理解である素粒子標準理論では説明できない現象であり、新たな物理を切り開く鍵である。しかし、詳細研究には誤差の大きい混合角θ23の精密測定,上限値しか分かっていなかったθ13の探索が重要課題である。 [研究方法] 本研究課題であるT2K実験は、θ23の精密測定とθ13の探索を目的とした長基線ν振動実験である。J-PARC陽子加速器で生成したνμを295km離れたSKで観測することによって、θ23が関与するνμ→νx振動モードとθ13が関与するνμ→νe振動モードの測定を行う。SKで予想されるνμ・νeイベント数はθ23ならびにθ13に依存するため、予想イベント数と実測値を比較することによりθ23とθ13を決定することができる。 [特色と問題点・解決方法] T2Kは世界初の試みであるオフアクシス法によって世界最高感度を達成する。オフアクシス法とは、ビーム中心軸をSK方向軸から少しずらしてSKにおけるシグナル数を増やすと同時に、バックグラウンド数を減らす手法である。しかし、ビーム中心軸と予想イベント数の間に強い相関があるため、ビーム中心軸を精度よく(<<1mrad)測定・モニターすることが必須となる。そこで、ビーム中心軸上に置かれた前置検出器INGRIDを用いてビーム中心軸を同定する。 [研究成果1:INGRIDを用いて目標精度でビーム中心軸を測定することに成功] 私はINGRIDの解析をゼロから確立し、ビーム中心軸を0.4mrad精度で測定することに成功した(NIMAより出版予定)。 [研究成果2:世界で初めて有限θ13の兆候を発見、世界最高水準のθ23精密測定に成功] 2010年1月から2011年3月までのデータを用いて世界で初めて有限θ13の兆候を発見した(PRL1O7:041801,2011)。さらにνμ→νx振動モードの解析を行い、世界最高水準のθ23測定に成功した(PRD85:031103,2012)。
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