本研究では、哺乳類で初めてのプライマーフェロモンとして、ヤギやヒツジにおいて非繁殖期の排卵を誘起する雄効果フェロモンを同定し、視床下部における作用機構の解明、応用に向けた基盤形成に敷衍することを目的としている。本年度の研究開始時点では16成分の人工合成品混合物にやや弱いフェロモン活性が確認されていた。まず、段階的なバイオアッセイによりフェロモン活性を有する成分の絞り込みを行い、フェロモン活性を示す最小セット、すなわち主要成分の同定を試みた。その結果、16成分のうちの単一成分だけでもフェロモン活性を示すことが明らかとなった。ただし、この成分の活性は、天然のフェロモン(雄ヤギ被毛付着物)よりも弱いため、光学異性体の検証を行った。この成分には2種の光学異性体があり、ヤギが産生するのはその一方のみであるのに対して、上記で用いた合成品は2種の等量混合物であるため、この差が天然物と合成品の活性の差であると予想し、2種の光学異性体を選択的に合成し、それぞれをバイオアッセイアッセイした。しかし、両者に活性の差は認められなかった。そこで、他の成分とのコンビネーションが重要であると考え、16成分にさらに5成分を加えた21成分のカクテルを作製し、バイオアッセイしたところ、活性の上昇が認められた。つまり、雄効果フェロモンは、主要成分(上記単一成分)と他の成分(個体臭)が協調することで強い活性を生じている可能性が示唆された。
|