本研究は、哺乳類で初めてのプライマーフェロモンとして、ヤギにおいて視床下部GnRHパルスジェネレーターの活動を促進することで非繁殖期の排卵を誘起する「雄効果フェロモン」を同定し、さらに作用機序の解明、応用に向けた基盤形成に敷衍することを目的としている。昨年までにフェロモン活性を有する単一成分(ただし雄被毛よりは活性が弱く、他の雄由来成分との協調が強い活性には必要と考えられる)が同定されていた。単一化合物にフェロモン活性が認められたことから、リガンドと受容体を1対1対応させることが可能となり、フェロモン受容体同定への道が拓かれた。フェロモンを受容した神経細胞では、神経活動に伴ってc-FosやEgr1などの最初期遺伝子の発現が上昇し、またフェロモン受容体候補の鋤鼻1型受容体(VIR)は1神経に1種類の受容体のみが発現すると考えられる。そこで、本年度は、最初期遺伝子とヤギの各種VIR(これまでに24種同定)のdouble in situ hybridizationを行い、その際に重ね合うVIRを探索することで、受容体の同定を目指した。まず、上記単一成分を呈示したヤギの嗅上皮および鋤鼻上皮の切片を作成し、c-FosおよびEgr1のin situ hybridizationを行った。その結果、嗅上皮ではc-Fosの発現が認められ、鋤鼻上皮ではどちらの遺伝子も発現が認められなかった。そこで、嗅上皮の切片を用いて、VIRの混合プローブとc-Fosのdouble in situ hybridizationを行ったところ、5種のVIRプローブのミックスとc-Fosのシグナルが重なる細胞が認められた。従って、上記化合物は嗅上皮のVIRで受容される可能性が考えられた。今後は培養細胞において各種VIR遺伝子を機能発現させ、より強力なアゴニストの開発や、協調成分の同定などに応用していく予定である。
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