研究概要 |
術後腸管麻痺は消化管炎症病態の1種である。消化管炎症時に粘膜層は炎症刺激により損傷することが知られている。その際、粘膜直下に局在し、粘膜バリア機能を担う腸筋線維芽細胞も損傷し、バリア機能の低下を引き起こす。そのため、腸筋線維芽細胞の損傷回復機構を解明することは、低下した粘膜バリア機能回復促進につながると考えられる。アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)によって産生されるプロスタグランジン類は組織修復因子として知られている。そこで、腸筋線維芽細胞の損傷回復機構におけるプロスタグランジン類の役割を解明することを目的とした。研究の成果として、1.損傷刺激によってウシ結腸より単離した腸筋線維芽細胞はCOX-2依存的なPGE_2産生を引き起こすことが明らかとなった。2.産生されたPGE_2はオートクライン的にPGE_2受容体サブタイプのEP2,EP3,EP4に作用し、腸筋線維芽細胞の損傷回復を促進することが分かった。3.EP2,EP4の活性化は成長因子の1つFGF-2産生を誘起し、そのFGF-2が腸筋線維芽細胞の傷口への遊走を促進した。一方でEP3の活性化は、成長因子産生を介さず直接的に腸筋線維芽細胞の傷口への遊走を促進することが明らかとなった。本研究の成果は、プロスタグランジン類が腸筋線維芽細胞の損傷からの回復を促進することを初めて明らかにしたものであり、炎症による粘膜バリア機能低下の治療法の開発にとって、重要な知見となり得ると考えられる。
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