研究課題/領域番号 |
10J01033
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩永 剛一 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 腸管 / 癌化 / 肥満細胞 / PGD_2 |
研究概要 |
術後腸管麻痺のイニシエータとして肥満細胞が重要な役割を果たしている可能性が報告されている。その肥満細胞はプロスタグランジン類の一つPGD_2を産生放出する。PGD_2はラット腸炎モデルにおいて炎症を抑制することが報告されている。また潰瘍性大腸炎患者の腸管組織中のPGD_2濃度が高いことも知られており、PGD_2が炎症の制御を行なっていることが示唆される。ところで、炎症の持続は組織の癌化を引き起こす。慢性腸炎患者は、大腸癌発症リスクが高い。上記の通り、PGD_2は炎症を制御している可能性があることから、慢性腸炎からの癌化における、PGD_2の関与を検討した。実験にはPGD_2合成酵素欠損マウス(H-PGDS^<-/->)と対照群(WT)を用いた。 (研究成果)1.H-PGDS^<-/->とWTに、発癌性物質azoxymethaneを投与し、その後腸炎誘発性物質Dextran sodium sulfate(DSS)4日間投与を3週間おきに3回繰り返して、腸炎からの癌化モデルとした。結果、H-PGDS^<-/->ではWTに比べて炎症の悪化が認められた。 2.3回目DSS投与終了後、両群の結腸中位~遠位部にポリープが形成されており、数はH-PGDS^<-/->で2倍以上だった。 3.H-PGDS^<-/->とWTにX線照射して骨髄を死滅させた後、H-PGDS^<-/->またはWTの骨髄細胞を移入し、その動物を用いて大腸癌モデルを作成した。結果、骨髄系細胞のH-PGDS欠損が炎症悪化とポリープ形成促進に関与していた。 4.免疫染色法により、肥満細胞がH-PGDSを発現していることが明らかとなった。 以上の結果より、肥満細胞由来PGD_2が腸炎ならびに、大腸癌発生の抑制に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。本研究で得られた知見は、癌の発生抑制に応用できる可能性があり、極めて興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発癌性物質アゾキシメタンと腸炎誘発性物質デキストラン硫酸投与による大腸癌モデルを用いて、PGD_2の病態生理的役割を昨年度は検討した。その結果、骨髄由来の肥満細胞から遊離するPGD2が炎症及び癌化を抑制することを明らかにしており、きわめて興味深い新知見である。一方で、筋線維芽細胞に関しては、PGE_2に関する論文を完成させ、米国薬理学会誌J Pharmacol Exp Ther. 2012に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
肥満細胞由来のPGD_2が、実際に炎症および癌化の抑制に関与しているのかを確認する。肥満細胞欠損マウスに、H-PGDS^<-/->またはWTより単離した肥満細胞を移入し、その動物を使って、病態モデルを作成、検討する。さらに、肥満細胞由来のPGD_2がどのような機構で、病態の悪化に関与するのかを検討したいと考えている。具体的にはPGD_2が癌化促進因子であるサイトカインXの産生を制御していることを示唆する報告があるため、Xの欠損動物や、阻害薬を用いて、炎症やポリープ形成具合を検討したいと考えている。
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