研究概要 |
本研究は,タナイス目甲殻類の多様化に関係する,第一歩脚の機能・形態("脚型")の進化史解明を分子系統学的アプローチから目指すもので,本年度は以下の成果を挙げた. 1 18S rRNA領域のほぼ全長を決定できる8個のプライマーを設計し,アニーリング温度等の実験条件を確立した. 2 18S rRNA領域の情報に基づいて,タナイス目内の分子系統解析を行った.外群には等脚類の2種,内群には3亜目12科30種(DDBJから引用した3種を含む)の配列を用いた.結果の詳細は以下のとおりである. 2(1)ネオタナイス亜目がタナイス亜目内の一部と姉妹群を形成した.現在認められるタナイス目内の3亜目(タナイス亜目,ネオタナイス亜目,アプセウデス亜目)間の系統関係はこれまで明らかでなかったが,今回の解析により,ネオタナイス亜目がタナイス亜目の一部と姉妹群を形成し,タナイス亜目が側系統となることが示された. 2(2)アプセウデス亜目内の関係は不明瞭だった.本亜目は複数の脚型を含む唯一の亜目であることから本研究課題において重要なグループであるが,今回の解析では,本亜目の種間の系統関係は不確定だった. 本年度の研究は,タナイス目内の高次分類群(亜目および上科)間の系統関係を初めて示し,また,アプセウデス亜目内の解析において18S rRNA領域が不適当であることを明らかにした.以上の成果を踏まえ,来年度はサンプルの追加を行い,亜目内・上科内といったより細かいスケールでの解析を進める.また,アプセウデス亜目についてはEF1α領域など別の領域の情報をもとに解析を行う予定である. なお,本年度は,上記研究以外に,採集調査中に得た標本に基づき,2報の記載論文と研究手法に関するテクニカルペーパー1報を共同で執筆し,成果を学会大会で発表した.
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