研究課題
高温超伝導体の基礎研究において究極の目的は、超伝導機構を解明し、室温超伝導を実現することである。現時点で、超伝導転移温度T_cの最高記録は高圧下のHg系銅酸化物高温超伝導体でT_c~169Kを達成し、近年発見された鉄系高温超伝導体では、Tc~55Kが報告されている。しかしながら、更に高い君を実現するためには、物質設計の指針が必要であり、微視的な超伝導機構の解明が強く望まれる。銅酸化物高温超伝導体では、CuO_2面の枚数の増加とT_cとの関連を明らかにするために、3枚のCuO_2面をもち、高いT_c(~110K)を示すBi系銅酸化物高温超伝導体Bi2223の電子構造を、角度分解光電子分光(ARPEs)を用いて詳細に調べた。Bi2223では、超伝導状態と、常伝導状態で観測されたエネルギーギャップ、及びエネルギーギャップの存在しない波数領域(フェルミアーク領域)の間に関係を見出だし、Tcを決定する重要な秩序パラメータを見出だした。その結果は、論文にまとめられ、Physical Review Bに受理された。鉄系高温超伝導体では、母物質BaFe_2As_2のFeサイトにNi,Cu,Znを不純物ドープした、電子ドープ型鉄系超伝導体の電子構造を、ARPESを用いて観測し、不純物ドープが超伝導に与える影響について詳細に調べた。一般に電子ドープ型鉄系超伝導体は、電子がFeAs層にドープされることにより、電子フェルミ面の体積は大きくなる一方で、ホール面のそれは小さくなると予想されるが、CuをドープしたBaFe_2As_2の電子フェルミ面の体積はCuの量に関わらずほとんど変化しなかった。ZnをドープしたBaFe_2As_2では、母物質で観測されている反強磁性秩序によるブリルアンゾーンの折りたたみによるバンド分散の折り返し構造が明瞭に観測され、またホール面、電子面が観測された。このことは、不純物置換によりドープされた電子の振る舞いを理解するための、重要な知見を得たと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
銅酸化物超伝導体では、超伝導ギャップとフェルミアークの関係を調べた研究成果を論文として発表できた。鉄系超伝導体では、不純物ドープ型鉄系超伝導体を系統的に測定し、その結果を現在論文にまとめている。
銅酸化物超伝導体では、CuO_2面を3枚もつBi2223の電子構造において観測されている特徴的な電子構造の機構を解明する。また、CuO_2面が1枚にも関わらずT_cが非常に高いHg系銅酸化物超伝導の電子構造の解明に取り掛かる。鉄系超伝導体では、CoドープしたBaFe_2As_2でCoが過剰にドープされた領域で超伝導ギャップにノードが存在するという結果が報告されているが、角度分解光電子分光による直接的な観測結果はまだない。今後の方策として、ギャップの異方性を決定することを目的にする。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Physical Review B
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