エージング過程と結晶化過程で異なる有機構造規定剤(OSDA)を用いることで、新たなゼオライト合成を目指す試みとして、Charge Density Mismatch法が提案されている。この手法では、エージング過程において電荷密度の低い、比較的大きなOSDAをAlリッチなゲルに添加することで結晶化を抑制している。また、近年のゼオライト合成の鍵である有機SDAは、年々その複雑さを増し、コストとプロセスの観点から新規ゼオライトの工業応用を阻害している。2003年にUOPによって報告されたUZM-4と呼ばれるゼオライトは、Charge Density Mismatch法という新しいアイデアを導入することで簡単な2種類のSDAをゼオライト合成に用いた。簡単なSDAから新規構造を得ることに成功したが、最終生成物には1種類のSDAが優先的に含まれている。当該年度には、種結晶を用いることでこれまで合成に必須であったエージング過程とその際に用いていたSDAを必要としない合成プロセスを確立した。 さらに、両親媒性分子を用いたゼオライト合成の検討を行った。ゼオライト合成の有機構造規定剤として働く分子に求められる条件は幾つかあるが、分子内での親疎水性は重要な要因であることが知られている。通常用いられる有機分子は等方的な親疎水性を有し、両親媒性分子の方な異方的親疎水性を有する分子はゼオライト合成に不向きであるとされてきた。その様な分子は、反応溶液である水中でミセルを形成しやすく、メソポーラスシリカなどの合成に用いられてきた。当該年度には、メソポーラスシリカとゼオライトの形成に関する知見を元に、濃厚ゲルを用いることで、代表的な量親媒性分子であるセチルトリメチルアンモニウムを用いたゼオライトの合成に成功した。得られたゼオライトがシリカライトー1であることをXRDによって確認し、その特徴的な結晶形はSDAの形状に由来する物と示唆された。 また、アルミノフォスフェート型ゼオライト(AlPO-5)合成過程を詳細に検討し、より工業的に有利な合成条件でAlPO-5を得ることに成功した。共同研究者と共にAIPO-5結晶化過程を詳細に検討し、AlPO-5結晶化前に異なるアルミノフォスフェートであるVPI-5が生成していることを見出した。また、VPI-5が低温で比較的早く生成し、反応系内のリン酸を消費してしまうため、より熱力学的に安定相であるAIPO-5の形成には相応の時間と温度(150~180℃)が必要であることが分かった。これらの結果を踏まえ、従来よりもリン酸量を大きく増やした合成組成において、AlPO-5を低温(120℃)で合成することに成功した。
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