高周波震源過程を明らかにするためには、非等方輻射のもとでの高周波地震波の特徴を調べる必要がある。従来、震源過程の研究においては、数Hz以上の地震波の方位依存性は無視できると考えられてきた。しかし本研究では、西南日本で発生した横ずれ断層型地震の高周波地震記録を精査し、2-16Hzの帯域において、震源距離80-200kmの範囲において明瞭な4象限型の方位依存性が見られることを初めて明らかにした。この方位依存性を、前方散乱近似に基づき合成した理論エンベロープにより定性的に再現することができた。これらの結果により、高周波地震動の解析において震源輻射特性を取り入れることの重要性が示された。また、輻射特性を取り入れた理論エンベロープを大地震の震源過程のインバージョン解析に適用できる根拠を示すことができた。 加えて、研究代表者は2点で観測される高周波地震記録のコヒーレンスについて理論的な考察を行った。ガウス型ランダム不均質媒質を仮定した場合に、2点間のコヒーレンスが観測点間距離、震源距離、周波数の増加と共に減少する様子を数理的に導くことに成功した。また、コヒーレンスが震源方向と観測点アレイとのなす角度にも依存し、アレイが震源方向に直交する場合に最もコヒーレンスが小さくなることを新たに導いた。本研究により、地震波干渉法に代表される地震波の位相を用いた解析と、エンベロープ解析に代表される地震波のエネルギーに着目した解析のそれぞれの適用限界が示唆された。この研究をさらに推し進めることで、深部低周波微動や余震などの微弱でかつ連続的な振動源を検出することが可能になると考えられる。
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