研究課題
肺炎球菌による感染症が、敗血症などの侵襲性の病態に進展する過程においては、菌が定着したのちに血管内へと移行し、血液中で宿主の免疫機構を回避して増殖する必要がある。しかし、肺炎球菌の血液中における動態や、病態の重症化機構については不明な部分が多い。最終年度である本年度は,初年度および前年度に得られた成果に基づき、赤血球の添加による肺炎球菌の宿主免疫回避機構への影響と,同菌の赤血球侵入機構について検討した.肺炎球菌について、菌体表層タンパクを細胞壁に架橋する役割を持つSortase Aの欠失株、溶血毒素であるPlyの欠失株、自己融解酵素であるLytAの欠失株をそれぞれ作製し、赤血球への侵入能を比較した。さらに、リピッドラフト形成阻害剤,アクチン重合阻害剤存在下における肺炎球菌の赤血球侵入能を比較した。侵入試験の結果,野生株と比較してΔlyM株は3倍以上侵入率が増加し、ΔsrtA株は39%まで侵入率が低下した。一方、Δply株については有意差は認められなかった。リピッドラフト形成阻害剤、アクチン重合阻害剤存在下では約50%まで侵入率が低下した。これらの結果から、肺炎球菌の赤血球侵入機構に、菌体表層タンパクとリピッドラフトならびにアクチンリモデリングが重要な役割をはたすことが示唆された。また、赤血球存在下における好中球ならびにH_2O_2の殺菌能の変化は、肺炎レンサ球菌を好中球またはH_2O_2と反応させた後、血液寒天培地上に播種し、生育コロニー数を計測することで決定した。補体非働化ヒト血清を加えた好中球殺菌試験では、肺炎球菌の菌数に差は認められなかったが、新鮮ヒト血清添加時には、培養3時間後に赤血球添加群が赤血球非添加時と比較して生存菌数が3倍以上に増加した。また、H_2O_2による殺菌能は赤血球の添加により80%以上抑制された。以上の結果から、肺炎球菌は赤血球に侵入し、宿主の免疫機構や抗生物質による殺菌を回避する可能性が示された。
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Genes & Development
巻: 26 ページ: 1041-1054
10.1101/gad.184325.111
Cellular Microbiology
巻: (in press)
10.1111/cmi.12083
http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~mcbio/kenkyuuyamal.html
http://nizetlab.ucsd.edu/index.html