本年度は、相模湾東部長井沿岸域に存在する3種の小型紅藻群落から、方形枠を用いて群落を構成する海藻類、および群落内の小型動物群集を周年にわたり定期的に採集し、その生息密度の季節的変化を調査した。この野外調査によって、サザエ・アワビ類、およびそれらの捕食者や競合種と思われる小型動物種に関して、個体数密度の経時変化を示すデータを蓄積した。水深の異なる2地点の有節サンゴモ群落の動物相を比較した結果、水深帯によってサザエ初期稚貝や、その捕食者となる肉食性巻貝類の個体数密度に差が認められ、存在する水深帯によって小型紅藻群落のマイクロハビタットとしての重要性に質的な差異がある可能性が示唆された。加えて、各海藻群落を構成する主要な海藻種の藻体上に存在する付着珪藻の生息密度と種組成の変化を追跡して調査し、水深帯や海藻群落の構成種による付着珪藻群落の組成の差異を調査した。調査海域において、観察頻度の高いベラ類4種を定期的に採集し、その消化管内容物を調べた。採集地点の有節サンゴモ群落内部の小型動物群集とベラ類の消化管内容物を比較した結果、サザエ稚貝を含めた海藻群落内の小型巻貝類がオハグロベラ、ササノハベラに捕食されていることが明らかになり、これまでの研究で明らかになった有節サンゴモ群落内部の高密度かつ多様な小型動物群集が、魚類などの大型捕食者の摂餌場としても重要であることを示した。また、室内実験によってベラ類の捕食行動、および有節サンゴモ藻体によるその低減効果を検討した結果、有節サンゴモ藻体の存在は、ベラ類の捕食行動の頻度を低下させ、群落内部の巻貝類・甲殻類に対する捕食を低減させる効果があることが明らかになった。
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