内耳形成後期の半規管形成において耳胞の背側で各種Wntの発現がみられるが、その役割はこれまで明らかになっていない。本研究では耳胞から半規管が形成されるダイナミクスについて、Wntシグナルの機能を明らかにすることを目的としている。 平成22年度は、内耳器官形成期の全胚培養法を確立し、各種阻害剤を添加することによるWnt古典的経路の機能亢進・阻害実験系を構築した。また、半規管形成期に耳胞の一部で特異的に発現するWntシグナル遺伝子のコンディショナルノックアウトマウス作出を行った。 全胚培養法は、MartinとCockroftの方法を参考に条件を検討したところ、実験に用いるのに十分な生存率が得られた。 阻害剤を用いたWntシグナルの機能亢進・阻害実験は、BAT-galトランスジェニックマウスで実際にWntシグナルが阻害剤の影響をうけていることを確認したのち解析を行い、半規管が異常な形態を示すことやプログラム細胞死を起こす上皮細胞数が変動することなどを見出した。 Wntシグナル遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスはBACトランスジェネシスによって作出した。エクソン直下に挿入したIRES-LacZカセットによってモニタリングできる内在の発現が原位置にあり、かつヌル変異胚をレスキューできることを確認した。並行してWnt古典的経路の実体であるβカテニンのコンディショナルノックアウトマウスや恒常活性型変異マウスも入手済みであり、これらのマウスを所属研究室で飼育中の耳胞特異的Creマウスと交配を行った。
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