研究概要 |
子どものコミュニケーション能力を明らかにするため、語用論理解の発達を検討した。具体的には、子どもに質問者役のパペットが、2つのパペットに質問をする人形劇をビデオで提示し、おかしい回答をしたパペットを選択するよう求める会話違反課題(Conversational Violations Test, Siegal, Iozzib, & Surian, 2009)の改良版を作成し、この課題を用いて以下の研究を行った。まず大人を対象とし、先行研究の質問項目の妥当性を検討し、刺激を作成した。次に、この刺激を大人と3~6歳児に呈示した。その結果、子どもの語用論理解はおよそ5歳ごろから深まり、また、子どもがもっとも良く理解できるのは回答者が関係のないことを答える場合(関連性の違反)であることが分かった。さらに子どもは大人と異なる会話のルール(格率)理解を持っている可能性も示唆された。子どもは質問者に対して失礼なことを言った(たとえば相手の勧める食べ物をまずそうと言う)回答者を「いけないことを言った」と判断したが、大人は相手との関係によっては率直な回答も良いと判断することがあった。こうしたマナーのルールは文化ごとに異なることが示唆されているが(Clyne, 1994)、それに加え、年齢や社会環境によって変わる可能性も考えられる。 就学前児を対象とした発達心理研究では、質問を課題に用いることが多い(Fritzley & Lee, 2003)。そして子どもは質問に回答の偏り(反応バイアス)を示すことがあり、この要因の1つとして語用論理解の未発達が指摘されている(e.g., Moriguchi, Okanda, & Itakura, 2008 ; Okanda & Itakura, 2010)。本年度では上述した研究に加えて、3歳児が対面の大人だけでなく、ビデオの中の大人やロボットに対しても肯定バイアス(「はい」の回答が多い傾向)を示すことを明らかにした。3歳児は質問にこうした反応バイアスを示すため、これまではできないと評価されていた能力が、実は質問が理解できないことによる評価であった可能性も考えられる(Siegal, 2008)。本研究はどの年齢の子どもがどのような質問を理解できるかを明らかにしようとしているため、こうした側面に貢献することができる。
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