本研究計画では子どものコミュニケーションの発達について主に2つの軸から検討を行った。第一の研究は、幼児が大人のyes-no質問に肯定バイアスを含む反応バイアスを示すかの検討であった。これまでの研究により、見知らぬ大人が対面で質問をする状況は、幼児に社会的プレッシャーを与えやすい可能性が示唆されたため、本研究ではこうした社会的プレッシャーを軽減する質問状況として、対面ではないインタビュー(ビデオを提示する)および見知らぬ大人以外の質問者(ロボット)によるインタビューという新たな条件を設定した。その結果、3歳児はどの条件においても強い肯定バイアスを示したが、4歳児は対面の大人にのみ肯定バイアスを示した。この結果より、年少児は状況などに関わらず自動的に肯定バイアスを示すが、年長児にとっては質問者が誰であるか、およびどのような状況で質問されるかが重要であり、質問状況によっては肯定バイアスを示すことが分かった。Yes-no質問は年少児に肯定バイアスを示させるため避けるべき質問形式であるが、年長児に用いる際にも、正しい回答を引き出すために社会的プレッシャーを軽減するなど(たとえば見知らぬ大人が質問者となる場合には事前にラポールを十分に取る、あるいはパペットを代用するなど)、工夫が必要であることが示唆された。また、これらの研究に加え、より複雑なyes-no質問に対して、3~6歳児がどのような回答を示すかについても検討した。 第二の研究は子どもの語用論理解の発達を調べるものであった。これまでは子どもに他者(パペット)が会話している様子を見せ、おかしな回答をするパペットを選択させたが、これは子どもが傍観者となる状況であった。本年度では、子ども自身が回答者となる状況を設定し、4~6歳児を対象に、おかしな質問(グライスの格率に違反したもの)をされた際にどのことに気がつくかどうか検討した。4歳児は、こうした状況においても、グライスの格率の違反に気がつくことは難しかった。 これらの研究は年齢ごとにふさわしい質問形式や質問状況を明らかにし、質問手法を多用する発達心理学研究に貢献するとともに、就学前期の子どもが他者との会話のやりとりを理解していく発達過程についても明らかにした。
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