研究概要 |
非平衡熱力学に現れる数理モデルの研究を行った.特に,固体と液体のような「二相間の相転移現象」,「形状記憶物質の挙動」に焦点を当て,非線形偏微分方程式で記述された数理モデルを扱い,定常状態とその安定性を考察した.保存系,具体的には断熱境界条件のような閉じた系における定常状態を考えると,全熱量や全エネルギーの保存則に由来する非局所項が積分項として定常方程式に現れる.このような非局所項をもつ問題には従来の方法が通用せず,実際に申請者らは,従来の枠組みから外れている性質として,安定で非自明な定常状態を検出していた.この性質は保存則に由来する非局所項に起因しているわけであるが,本研究によって「熱力学の数理モデルでは,非局所項はすべての定常状態を安定化する」ことを一般に明らかにした.また,熱力学の数理モデルでは,温度が定常状態の安定性を定めるようモデルが作られているが,「保存系では温度ではなく保存量が定常状態の安定性を定めている」ことを示した,これらの一般的な結果は,上記のように単純な言葉で表される,それ自体に意義のあるものであるが,個々の数理モデルを分岐理論などを用いて詳しく解析していくときに応用することもできる重要な結果である.例えば,Falkによる形状記憶合金の数理モデルでは,この一般的結果と分岐理論を組み合わせることによって様々なことが理解できた.実際,定常状態の全体が明瞭になり,また,温度やエネルギーの上げ下げに関するヒステリシスを分岐図上で観察でき,形状記憶合金の棒の安定な形状や挙動が示唆された.
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