ポリオール等の多官能基性化合物の位置選択的化学修飾は現代有機化学の未発達課題であり、信頼できる非酵素的手法は皆無に等しい。報告者らはこの課題に取り組み、無保護グルコピラノシド誘導体の位置選択的アシル化を既に達成している。これにより、手探りの状態であった分野に確実性のある触媒設計のコンセプトを発信することができたが、有用化合物の合成に実際に利用できるかどうかは実証されておらず、実例を示す必要があった。そこで、報告者は本反応を鍵とする抗腫瘍活性配糖体multifidoside A及びBの全合成研究を行った。multifidoside A及びBはグルコースの4位にクマロイル基を有する配糖体である。本反応を合成終盤で無保護グルコピラノシドに用いると、期待通り4位選択的にクマロイル化が進行した。本アシル化は種々の水素結合能を有する官能基に寛容であることが既に明らかにされている。すなわち本合成法では終盤で様々なアシル基を位置選択的に導入できるため、同じ合成中間体から短工程で様々な誘導体を合成することができ、天然物合成だけでなく関連物質のライブラリー構築も容易に行える点に特徴がある。さらに合成途中にこれまで報告例のなかった、エナミン機構を経るアリールケトンの分子内不斉アルドール反応を効率的に触媒する有機触媒を見出すことができた。以上のように、官能基寛容性の高い有機触媒による選択的反応を用いることで、位置選択的、エナンチオ選択的にmultifidoside A及びBの初の全合成を達成することができた。
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