アミド結合は多くの天然物や医薬品、ポリマーなどの工業製品に含まれる重要な官能基である。現在主流のアミド合成法では化学両論量以上の縮合剤や塩基を用い多くの廃棄物を副生してしまうため環境調和型プロセスの開発が強く望まれている。研究代表者は多核金属クラスター(1)と金属アルコキシド(2)の二通りのアプローチによる触媒的エステル-アミド交換反応の開発を目的としている。(1)当グループではトリフルオロ酢酸架橋亜鉛四核クラスターがエステル交換反応において高い触媒活性を示し、さらにアミノ基の共存下でも水酸基を選択的にアシル化する特異な化学選択性を報告している。研究代表者はエステル-アミド交換反応の触媒設計を行うために、亜鉛四核クラスターの化学選択性についての調査を行っている。これまでに配位子効果を調べ、エステル交換反応では複数の亜鉛中心が協同的に働き高活性を発現するがエステル-アミド交換反応では通常のルイス酸触媒として働くため低活性となることが分かっている。本年度の成果としては、エステル-アミド交換反応で酢酸架橋のクラスターを用い活性の向上に成功した。また、コバルト四核クラスターも同様に水酸基選択性を有することを発見した。コバルトを用いると分析手段が広がるため今後さらに詳細な機構解明が期待できる。(2)当グループではナトリウムメトキシドがエステル-アミド交換反応で高い触媒活性を示すことを発見しており、研究代表者はこれまで触媒系の最適化、基質適用範囲の拡大を行ってきた。本反応系は塩基性であるためα-アミノ酸エステルではエピメリ化反応の進行が問題となっていた。本年度は添加剤を検討し、フェノール誘導体を添加することで塩基性のコントロールによるエピメリ化反応の抑制に成功した。その結果、種々のα-アミノ酸エステルのアミド化、ペプチドカップリング反応において高収率、高エナンチオ過剰率を達成した。
|