研究課題/領域番号 |
10J01539
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
南 拓也 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 電磁誘起透明化 / 分子集合体 / 励起状態 / 量子マスター方程式 / 光学吸収 |
研究概要 |
本年度は、分子集団における電磁誘起透明化(以下、EIT)の分子集合体への適用可能性を検討するため、遷移双極子から構成されるモデルにおける励起状態ダイナミクス、及び動的分極率を量子マスター方程式に基づき解析した。従来の研究では単純な三準位モデルに基づくEITが検討されてきたが、分子集合体や一般の分子系では多彩な相互作用により多数の励起状態が光学遷移に関係するため、入射光に対して複数の励起状態が干渉する効果を検討する必要がある。昨年度では、双極子が垂直に並んだL型モデルにおいて制御光振動数を調節することによりEITを起こす波長領域を制御できる事が判明した。これに基づき本年度では、分子集合体におけるEITの適用可能性を裏付けるために、分子間相互作用強度がEITによる吸収強度変化に及ぼす影響について検討した。上記のL型モデルと双極子を平行に並べたH型モデルにおいて分子間距離を様々に変化させ、制御光照射前後の吸収スペクトルの変化を解析した。その結果、制御光照射前の吸収強度は分子間相互作用に対して変化するにも関わらず、制御光照射後の吸収強度は分子間相互作用に依存しないことが判明した。このように、EITが分子間相互作用強度によらず一定の程度で誘起できることは、分子集合体においてEITを実現する上で極めて重要な結果であり、分子集合体におけるEITの適用可能性を支持する結果である。本研究の成果は、2011年7月に金沢で行われた国際会議XVI-th International Workshop on Quantum Systems in Chemistry and Physics(QSCP-XVI)において報告した。また、昨年度と本年度の結果を合わせた研究成果を国際論文誌Progress in Chemical Physicsに投稿し、査読を経て受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において電磁誘起透明化(EIT)の分子集合体への適用可能性を示すことができた点、及びその研究成果を論文誌に投稿できた点において、本研究は順調に進行している。また、電磁誘起透明化によって減少した吸収強度が分子間相互作用に依存しないことが判明した点については、研究計画段階での想定以上の成果である。しかし、H23年度に行う予定であった多量体への電磁誘起透明化の展開は達成できておらず、これについては次年度において検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度では、多くの三準位モノマーからなる多量体モデルにおける電磁誘起透明化の展開を目指す。多量体モデルの導入により、分子集合体構造による励起準位の多彩な制御が可能となる。これまでの研究で明らかになっているように、複数の励起準位が共存する中でも制御光振動数を調節すれば、特定の波長をもつ光の吸収を電磁誘起透明化現象により抑制できる。したがって、多量体モデルにおいて二量体と同様の結果が得られたならば、物質を透過する光の振動数を自在に制御する、EITを利用した新たな光スイッチングデバイスへの展開が期待できる。また、上記の線形光学応答特性だけでなく、EITにともなう分子集合体の非線形光学応答特性の変化についても議論する。これまでにEITによる三次非線形光学応答特性の増大が報告されているが、分子間相互作用がもたらす効果に関する議論は未だ成されておらず、学術的にも応用的にも興味深い成果が期待できる。
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