本研究の目的は、「シアノ錯体界面を通じての電圧誘起物質移動とそれを用いた新機能の開拓」の研究分野を開拓することである。平成22年度では、電圧誘起物質移動の機構解明の手掛かりを得るために、下記の内容について測定を行った。1.シアノ錯体薄膜間のイオン移動の機構解明を理解するためには、シアノ錯体薄膜の持つ電気特性を理解する必要がある。そこで、Na_xCo[Fe(CN)_6]_<0.90>2.9H_2O(NCF90)、Na_xCo[Fe(CN)_6]_<0.71>3.8H_2O(NCF71)、Na_xNi[Fe(CN)_6]_<0.68>5.1H_2O(NNF68)の三種類のシアノ錯体薄膜の電気特性の測定を行った。その結果、シアノ錯体薄膜は抵抗体であることがわかった。2.上記3種類の膜は、SEM観察および、X線回折パターンの測定により、NCF90膜は弱い(111)配向を示し断面方向に結晶粒が大きく成長し、NCF71膜は(111)配向した結晶粒が成長することがわかった。また、NNF68膜は断面方向に結晶粒は観察されない膜である。膜構造と物質移動の関係を明らかとするために、膜構造の異なるシアノ錯体薄膜を用いて、それぞれの膜のホモ接合全固体素子を作成し、その電気特性を測定した。その結果、結晶性の良いNCF90、NCF71膜で作成した素子では速い電流応答が誘起されるが、結晶性の悪いNNF68膜で作成した素子では、遅い電流応答が観測された。このことから、シアノ錯体薄膜を利用した素子において速い応答速度を得るためには、結晶性の良い試料を選択する必要があることが示唆された。
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