研究課題
本研究では、大きな三次非線形光学物性を持つ物質の設計指針を構築することを目指して、開殻一重項性の金属-金属結合系の第二超分極率(γ)をジラジカル性の観点から検討している。本年度は、金属-金属結合を持つCr(II)二核系において、ジラジカル性を持つdσ、dπ、dδ軌道がγにどのよに影響を与えるかを調査した。その結果、dσ軌道がγに対して主な寄与をし、一方で、dπ、dδ軌道の寄与は極めて小さいことが明らかとなった。また、これらの軌道のγへの寄与は軌道のジラジカル性が中程度の時に大きくなることも明らかとなった。続いて、他の遷移金属種の二核系においても検討を行ったところ、Cr(II)二核系と同様の結果が得られた。また、金属の正電荷が小さい系や、周期表における族番号が小さい系ほど、dσ軌道のジラジカル性が中程度の時に大きなγを示すことも明らかとなった。これは、大きな核間距離でdσ軌道のジラジカル性が中程度となったためであると考えられる。さらに、金属種の周期もγと関係しており、第一遷移金属の系よりも第二、第三遷移金属の系の方が大きなγを示すことが判明した。この傾向も核間距離とdσ軌道のジラジカル性によって説明される。しかし、第二、第三遷移金属の系ではかなり大きな核間距離でないとdσ軌道のジラジカル性は中間とはならず、これらの系で大きなγを目指すことは非現実的である。本研究の成果はICCMSE2010、Pacifichem2010、分子科学討論会で発表した。来年度は四核系、六核系、八核系を検討することでγのサイズ依存性と結合交替の効果を解明し、それをもとに金属種、核間距離、電荷など具体的な分子設計指針を提案する予定である。
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