ビセライド類は海洋動物から発見されたマクロラクトン化合物であり、ビセライドAからEまでの5種類が報告されています。また類縁体としてはハテルマライドNAがあります。ビセライド類は、腫瘍細胞に対して増殖抑制活性を示すにもかかわらず、生物であるブラインシュリンプに対して毒性を示しません。このことから、ビセライドは、腫瘍細胞に選択的に細胞毒性を示すのではないかと示唆されました。よってビセライドは、新たな抗がん剤のリード化合物として期待することができます。しかしながら、サンプル量の欠如のために詳細な生物活性測定は行われていません。そこでさらなる詳細な生物活性測定を行うため、ビセライド類の全合成による標品供給を行うことを計画しました。類縁体であるハテルマライドNAの全合成はすでに当研究室で達成されております。しかしながら、このハテルマライドNAの合成経路を基にしてビセライドを合成しようとした場合、ビセライドの持つ独特の有機化学的構造のため、有効な合成方法がありません。そこで私は、ハテルマライドNAとは異なった合成経路を検討することとしました。さまざまな合成経路について検討した結果、二酸化セレンを用いた位置選択的アリル酸化を見出し、ビセライドの合成における重要中間体の合成に成功しました。現在は重要中間体に対して官能基変換を行い、ビセライド類のマクロラクトン部の合成に成功しています。今後は側鎖部の導入の検討を行いビセライド類を合成する予定です。
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