研究課題/領域番号 |
10J01697
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山口 智史 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 電気刺激 / 随意運動 / 経頭蓋磁気刺激 / 経頭蓋直流電気刺激 / H反射 / 運動誘発電位(MEP) / 可塑性 / ペダリング |
研究概要 |
本年度の研究では、ペダリング運動と電気刺激治療の併用による効果のメカニズムを解明するために、2つの研究を行った。1つ目に、電気刺激によるアーチファクトの影響を受けない筋音図計(MMG)を用いて、随意運動と電気刺激を同時に行っている最中の皮質脊髄路の興奮性変化を、経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(MEP)で評価した。特に電気刺激を行った神経の支配筋(擁側手根屈筋;主動作筋)においては、電気刺激を随意運動に併せて行うことによって、同強度の随意運動のみを行った時のMEPと比較して皮質脊髄路の興奮性が有意に増加した。また、その興奮性の増加は、随意運動の強度が増加することにより、さらに高くなった。一方で、拮抗筋(擁側手根伸筋)においては、電気刺激を随意運動と併せることにより、皮質脊髄路の興奮性が、抑制に働くことにより、reciprocalに興奮性が変化することが示された。2つ目の研究として、大脳皮質の興奮性が末梢からの電気刺激による脊髄介在ニューロンの可塑性に影響を与えるかを検討した。patterned afferent electrical stimulation(PES)は、末梢神経からの高周波感覚刺激によってdisynaptic reciprocal inhibition(RI)を修飾し、脊髄可塑性を誘導することが知られている。また経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は、極性に依存して、大脳皮質の興奮性を変化させることが可能である。今回、PESとtDCSの同時使用によるRIの変化を検討した。その結果、PESとanodal tDCSを組み合わせることで、PES単体と比較し、PESにより得られるRI修飾効果を促進する可能性を示した。一方で、PESとcathodal tDCSの組み合わせでは、PESによるRIの可塑性が消失した。これらの結果から、大脳皮質の興奮性が脊髄介在ニューロンの可塑性の誘導に重要であることが示唆された。 これらの結果から、随意運動(ペダリング運動)と電気刺激療法を組み合わせることで、中枢神経系疾患例において脳や脊髄レベルでの可塑性を誘導し、有効な治療効果につながる可能性を示した。またこれらの内容を、第46回日本理学療法学術大会(5月、宮崎)16th World Congress for Physical Therapyにおいて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度までに、健常者と脳卒中患者数例を対象に、ペダリング運動(随意運動)と電気刺激の併用による即時的な効果とメカニズムを検討している。現在、長期的な臨床的効果を検討するために、無作為化比較試験の準備を進めており、実施施設において倫理審査会の承認を得ている。来年度は、4月から研究を開始し、臨床的な効果の実証を進める計画である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度における研究では、ペダリング運動と電気刺激の併用による介入効果を、多施設間による無作為化比較試験によって検討する予定である。現在、実施施設において倫理審査会の承認を得ており、4月から開始する予定である。
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