研究概要 |
本研究の目的は、(1)リボソームを中心とするタンパク質生合成システム作動原理の構造に立脚した理解と、(2)そのために必要な巨大分子シミュレーション技術の確立である。 一年目である本年度は、まず(2)に対応して、RNA-タンパク質複合体を扱うのに適した粗視化モデルの構築を行った。結果として得られたモデルでは、タンパク質を一アミノ酸あたり一つ、RNAを一塩基あたり三つの粒子で表現し、各粒子間の相互作用は与えられた参照構造が最安定となるポテンシャルを設定した。ポテンシャル関数内のパラメータを決めるにあたり、タンパク質内部には先行研究(LiW, et al. 2010)の結果を用い、RNA内部およびRNA-タンパク質間には、精度向上のため全原子シミュレーションに基づくマルチスケール・モデリングを試みた。具体的には、20あまりのRNAおよびRNA-タンパク質複合体分子をターゲットに、全原子力場によるシミュレーションから得られた揺らぎの情報を粗視化モデルに反映させる方法(Fluctuation Matching法)でパラメータを決定した。モデルの妥当性を検証するため、tRNAをはじめとするいくつかの分子に対する300Kでの粗視化シミュレーションと、結晶構造解析の温度因子データや全原子計算の結果とを比較し、本モデルが天然構造周りでの揺らぎ具合を再現できていることを確認した。 また、目的(1)の達成に向けて、tRNA、mRNAを含むリボソーム複合体について、シミュレーションに用いる構造データの準備を行った。構造変化メカニズムを調べるためには、過程のいくつかの状態に対応する構造を慎重に選定し、それらを一つの計算の中で組み合わせて用いる必要がある。そのため、スレッディングなどのモデリング技術を用いて、異なる結晶構造間の対応関係を合わせ、翻訳中のリボソームのダイナミックな挙動をシミュレートするための準備を進めた。
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