研究課題/領域番号 |
10J01723
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堀 直人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | リボソーム / タンパク質生合成 / 分枝シミュレーション / 粗視化モデル / 翻訳 / tRNA / トランスロケーション / アンブレラサンプリング |
研究概要 |
本研究の目的は、(1)リボソームを中心とするタンパク質生合成システム作動原理の構造に立脚した理解と、(2)そのために必要な巨大分子シミュレーション技術の確立である。前年度の研究で、目的(2)に対応しRNAタンパク質複合体を扱える粗視化モデルが構築できたので、今年度は目的(1)の達成に向けて、粗視化モデルを用いたリボソーム-tRNA複合体のシミュレーション研究を行った。 まず、本研究で開発した粗視化モデルをリボソーム複合体に適用した際の基本的な挙動を確認した。サブユニット回転前の結晶構造を用いて温度300Kでの粗視化シミュレーションを行ったところ、揺らぎの主成分からサブユニット回転に相当するモードが大きな寄与として検出された。これは、リボソームの回転前構造がすでに回転方向へ動きやすい性質を持っていることを示しており、他のグループによる先行研究と一致していて、本研究で開発したモデルの有効性を確認できた。また、サブユニット回転後の構造も組み合わせて用いることで、より大規模な構造変化を再現できることが確認できた。 次に、リボソーム空洞内におけるtRNAの挙動を調べるため、温度一定のMD計算、およびtRNAの配向を座標軸とするアンブレラサンプリング法による自由エネルギー計算の両方を行った。サブユニットの回転前後に対応する2つの結晶構造を用い、一つまたは二つのtRNA結合サイト(Aサイト・Pサイト)にtRNAを配置した。計算の結果として、実験的にも示唆されているtRNAのハイブリッド状態形成が観察された。また自由エネルギープロファイルから、サブユニット回転がおこるとハイブリッド状態が安定化されることが分かった。これら一連の計算は、原子数としても時間スケールとしても一般的な全原子計算では困難なものであり、粗視化モデルの構築から進めたことで初めて可能となった。次年度は引き続き翻訳伸長反応全体のメカニズム解明を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二つの目的のうちの一つである新規シミュレーション技術の開発については、本研究課題を達成するにあたり十分なものがほぼ完成された。もう一つの目的、リボソーム翻訳伸長のシミュレーション研究については、翻訳伸長反応全体のおよそ半分の段階まで計算できており概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、tRNAのハイブリッド状態形成までをシミュレーションで再現することができ、リボソームサブユニット回転との相関が示唆された。次年度は引き続き、トランスロケーション反応全体、すなわち隣の結合サイトへの転移が完了するまでの過程を調べる予定である。
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