研究概要 |
本研究の目的は、(1)リボソームを中心とするタンパク質生合成システム作動原理の構造に立脚した理解と、(2)そのために必要な巨大分子シミュレーション技術の確立である。前年度までに、目的(2)に対応するRNA一タンパク質複合体の粗視化モデルの構築を完了している。また、目的(1)の達成に向けて、リボソーム-tRNA複合体の計算を開始しており、本年度は計算結果の解析や論文出版へのまとめ作業を行った。 リボソームの翻訳伸長時には、結合した2つのtRNAが正確に1コドン分移動する。この際、(a)リボソームサブユニット間の回転運動、(b)L1ストークの動き、(c)tRNAのハイブリッド状態形成という3つの特徴的運動が実験的に観察されている。しかし、それらがどのように共役しているかなど、メカニズムの詳細は分かっていない。そこで、状態の異なる2つのリボソーム構造を用いて、Aサイト、Pサイト、または両方にtRNAが結合した状態でシミュレーションを行い、tRNAの移動過程とリボソーム構造の関係性について調べた。解析結果から、リボソーム構造に関わらずPサイトtRNAはハイブリッド状態をとるが、サブユニット回転後の構造においてより安定であることが分かった。一方、AサイトtRNAは比較的ハイブリッド状態を形成しにくく、A・P両方にtRNAがある場合は、"ハイブリッド2(P/E,A/A)"と呼ばれる状態が安定であった。さらに、実験的に関連が示唆されているA-sitefinger(ASF)について、変異型リボソームでのシミュレーションを行い、ASFがAサイトtRNAのハイブリッド状態形成を抑制していることが確認できた。一連の計算は、原子数としても時間スケールとしても一般的な全原子MD計算では困難なものであり、本研究において粗視化モデルを適用して進めたことで初めて可能となった。
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