研究概要 |
平成22年度は準長石族鉱物の結晶化学的研究,及び,島根県浜田市に産するメリライトかんらん石霞岩中のメリライトとネフェリンの産状と化学組成の記載的研究を行った. 1.メリライト(W_2T1T2_2O_7)の二つの4配位席(T1,T2)における3価の陽イオンの挙動と変調構造に及ぼす影響を検討するために,Ca_2MgSi_2O_7(akermanite : Ak)-Ca_2Fe^<3+>AlSiO_7(FAGeh)系,Ca_2Al_2SiO_7(gehlenite : Geh)-FAGeh系,Ak-Ca_2Fe^<3+>GaSiO_7(FGGeh)系,及びCa_2Ga_2SiO_7(Ga-gehlenite : GGeh)-FGGeh系のメリライトを合成し,X線粉末結晶構造解析,^<57>Feメスバウアー分光分析,高分解能透過型電子顕微鏡観察を行った.この結果,Fe^<3+>がT1とT2席の両方に分布すること,T2席はT1席に比べて共有結合性が著しく強いことが明らかになった.また,T1とT2席における遷移金属イオンとAl^<3+>あるいはGa^<3+>の分布は,T1O_4およびT2O_4四面体の大きさと陽イオンのイオン半径だけなく,4配位席における共有結合性と元素の電気陰性度にも関係することも明らかにした.変調構造はX線粉末回折測定結果及び高分解能透過型電子顕微鏡観察では認められなかったが,T1席のFe^<3+>のメスバウアーダブレットの半値幅が広く,T1席の歪みの違いによる変調構造の存在が認められた.従来,メリライトは常温で歪んだT1席により変調構造を顕著に示すとされてきたが,本研究の結果,4配位席のイオン結合性及び共有結合性がメリライト中のT1,T2席における陽イオン分布に大きな影響を与えること,メリライトにおける変調構造の程度は,4配位席における陽イオン分布とそれによる構造変化に依存することが明らかとなった. 2.島根県浜田市に産するメリライトかんらん石霞岩中の霞石とメリライトの産状,化学組成,成因を研究した.本霞石岩中のメリライトは,大陸の霞石岩中のものと同様にSrに富むことを明らかにし,霞石岩の成因を明らかにする重要な手掛かりを与えた.霞石の化学分析とX線単結晶構造解析の結果から,霞石の変調構造の解明の手掛かりを得た.これらの結果を国際誌に投稿し,修正の上受理可能との査読結果を得ている.
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