研究概要 |
高レベル放射性廃棄物の地層処分において,岩石間隙水中の放射性核種の拡散現象を理解することが重要である。一方、地下坑道の掘削・施工時における湧水抑制対策にセメント系グラウト材を用いた場合,高アルカリ性水溶液が発生し,周囲の岩石が変質する可能性がある。この変質現象によって岩石の間隙構造が変化し、岩石間隙水中の放射性核種の拡散係数が変化する可能性がある。本研究ではこの影響を評価するため、花崗岩のアルカリ変質試験を行い、間隙構造の変化を観察した。岩石試料には、茨城県笠間市稲田産の稲田花崗岩の研磨片(10×10×5mm)を用いた。稲田花崗岩とCa(OH)_2水溶液(pH12.5)を固液比1:10に調整し、テフロン容器に密封し、140℃での加速変質試験を行った。この試験において、花崗岩研磨片表面は亀裂表面、花崗岩研磨片内部はマトリクス部に相当し、亀裂系での変質過程を模擬した。試験後、室温まで冷却し、固相と液相をそれぞれ回収した。液相はpH電極とイオンクロマトグラフィー、固相は顕微ラマン分光計と電子顕微鏡を用いて分析を行った。試験後の溶液を分析した結果、pHの低下、Ca濃度の減少、Si濃度の増加が認められた。また、試験後固相の研磨片を顕微鏡で観察した結果、主に石英・長石の表面に膜状変質生成物が観察された。これらの変質生成物を顕微ラマン分光法で分析した結果、方解石及び低結晶性Calcium Silicate Hydrate(C-S-H)もしくはトバモライトと推定されるピークが確認された。さらに試験後の変質花崗岩を低速カッターで切断し、切断面の電子顕微鏡による観察を行った。花崗岩研磨片の表面には数μm程度の捻じれた板状鉱物の集合が見られ、それぞれの板状鉱物の間には間隙が見られた。一方で花崗岩研磨片内部には変質生成物が見られず、間隙構造の大きな変化は見られなかった。
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