本研究では、精密有機化学に基づいた金属内包フラーレンの化学修飾および機能性材料の探索を行い、下記2点の結果を得た。 1.La@C_<82>誘導体(La@C_<82>Ad)の集積体およびLa@C_<82>-ポルフィリン(La@C_<82>-Ni(OEP))単結晶の優れた電荷輸送特性 フラーレンの高選択的化学修飾に有用なアダマンタンジアジリンを用いた金属内包フラーレン誘導体La@C_<82>Adの集積体(単結晶やナノロッド)およびポルフィリンを用いたLa@C_<82>-Ni^<II>(OEP)単結晶を作成し、その電荷輸送特性を時間分解マイクロ波伝導度測定法により評価した。その結果、La@C_<82>Adの単結晶およびナノロッドでは、電子移動度μ=10cm^2V^<-1>s^<-1>が、また、ポルフィリンを用いた共結晶La@C_<82>-Ni(OEP)においては、電子移動度μ=0.9cm^2V^<-1>s^<-1>が見積もられた。これらの移動度は、これまでに報告された有機電子受容体の中でも格段に高い値である。これらの結果、金属内包フラーレンが優れた導電材料になり得ることが示唆された。 2.金属内包フラーレン二量体の構造解析 シクロペンタジエン誘導体を付加させたLa@C_<82>Cp^*は単結晶中において占有率60%で二量体を形成する。この単結晶に関して、温度可変による単結晶X線構造解析および固体ESR測定を行った。その結果、温度可変単結晶X線構造解析では90K~223Kの温度範囲において二量体が安定に存在することが、また固体ESR測定では、単結晶中40%の割合で存在する一量体に由来するシグナルを観測することができた。また理論計算の結果、La@C_<82>Cp^*のフラーレンケージ上のスピン密度が、フラーレン間の結合に大きな役割を果たしていることが明らかとなった。興味深い金属内包フラーレン二量体に関し、詳細な構造解析、および二量体形成の要因の解明に成功した。
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