当該年度前半では、文献による資料(データ)収集において、青銅器のグルーピングに有効と考えられる属性を複数発見することが出来た。これらの成果の一部については当該年度内に口頭発表を行なった。さらに、これに基づいて年度後半には実地調査を国内(京都大学、黒川古文化研究所、天理参考館、東京大学)、国外(赤峰市博物館、寧城県博物館(以上、中国)、アバカン博物館、ミヌシンスク博物館(以上、ロシア))にて実施した。集成したデータは整理中であるが、実地調査前のグルーピングの妥当性を検証する結果、およびその背景を示唆するような事象が得られ始めている。また、調査対象資料に未公開の資料が多く含まれていることも特筆すべき点である。 具体的には、1:前2千年紀前半のセイマートルビノ青銅器群が中国初期青銅器に与えた影響、2:前2千年紀末~1千年紀初頭の青銅器様式の変遷、を当面の解明事項とし、1については青銅有〓矛、2については青銅刀子の検討を行なった。1では、前2千年紀前半の中央ユーラシア東部において、アンドロノヴォ文化の青銅器とセイマートルビノ青銅器群が2つの大きな青銅器文化圏をなしていることを踏まえ、2つの青銅器文化が各々の系譜や意味を保ちつつ、中国初期青銅器の発生に寄与したとするモデルを構築した。これは、従来漠然と指摘されていた、中国初期青銅器と中央ユーラシア青銅器の関係をさらに踏み込んだ形で評価したものである。2では、文献による集成や実見により、中国長城地帯の青銅刀子について、複数の新たな属性を見出し、仮のグルーピングを行なった。結果、抽出した群が年代指標となる、群間に明確な隔絶性が認められる、またそれが製作技法に深く関連するといった可能性が出てきている。さらに、これらの事象を踏まえ海外にて実地調査を行なった結果、抽出したある種の群が南シベリアの影響を強く受けている可能性を把握するに至った。
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