本年度の研究実施計画において、報告者は以下の目的、解明事項を挙げた。 本研究の目的は、中央ユーラシア全体の青銅器時代において、その文化動態における内的側面に注目し、当該領域の文化形成過程と変容に関する新たなモデルを提示することである。さらに、学史上指摘が非常に少ない、ユーラシア北方草原地帯東部における独自の文化形成に着目して研究を進める。具体的には以下2つの解明事項が特に重要である。 (1)前2千年紀前半におけるセイマートルビノ青銅器群の伝播過程およびその背景の解明 (2)前2千年紀後半のアルタイ以東における青銅器文化の成立、変容過程とその背景の解明 (1)、(2)の課題の主要な部分は前年度までに見通しを得られており、本年度は両課題で得られた分析結果を基礎に、ユーラシア北方草原地帯東部における青銅器時代の通時的な動態把握を試みた。 前2千年紀末のモンゴル附近において、これ以前の、セイマ・トルビノ青銅器群、EAMP(アンドロノヴォ文化の青銅器文化)と区分される独自の青銅器文化が突如起こってくる様相を、それぞれの時期の分析結果に矛盾なく、整合的に説明できるかどうかが特に重要な課題であった。報告者はユーラシア草原地帯東部における、山脈を挟んだ地理的差異、それに基づく社会的状況の差異に注目し、モデルを構築した。また、前2千年紀末にモンゴリアで成立した青銅器文化は、ミヌシンスクで在来の青銅器文化と接触することにより、新たな青銅器文化を生み出した。この文化はミヌシンスクからモンゴリアへ拡散するだけでなく、ユーラシア草原地帯西部にも拡散したと言われる。この新たな青銅器文化の成立や拡散の要因についても、上記の地理および社会状況の差異が想定される。ユーラシア草原地帯西部への拡散状況については、本研究の計画の範囲を超えたものであるが、初期鉄器時代(スキタイ期)の物質文化拡散を考えていく上で、非常に重要であるという見通しを得た。
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