Quinocarcinは、6つの不斉点と、特徴的な縮環型五環性骨格を有する合成化学的に挑戦的な化合物である。そのリンパ性白血病細胞に対する著しい増殖阻害活性から、医薬品標的化合物としても有望視されている。またquinocarcin中心骨格である縮環型テトラヒドロイソキノリン骨格は、種々の天然物に共通の骨格であるため、効率的な合成法の開発が強く望まれている。本合成計画はクロスカップリング反応-環化付加反応を基盤とした、収束的合成法が特長であるため、quinocarcinに類似した中心骨格を有する多様な化合物群を容易に合成することが可能となる。本合成研究において得られた各種誘導体の構造活性相関研究を行う事により、急性リンパ性白血病治療に有用な医薬品の開発を目指す。 申請者はまずquinocarcin合成研究の鍵反応となる、薗頭カップリング-環化付加反応を用いた中心骨格構築法について条件の最適化を行うため、フェニルグリシノール誘導体と、容易に調製可能な飴置換プロパルギルアミン誘導体を用いたモデル実験を行った。通常の反応条件下において、薗頭カップリングを行ったところ、目的のクロスカップリングは進行せず、アルキン成分のホモカップリングのみが進行した。ホモカップリングは銅触媒により促進されるため、パラジウム触媒のみを用いて反応を行ったところ、クロスカップリング体が良好な収率で得られた。環化付加反応では、当初、望みの6-endo-dig型環化付加体は全く得られず、位置異性体である5-exo-dig型のみが生成する結果であったが、遷移金属触媒、溶媒、反応温度、アミンやアルコールの保護基を含めた詳細な反応条件の検討を行うことで、完全な位置選択性で望みの6-endo-dig型環化付加体を得ることに成功した。その後、得られたジヒドロイソキノリンの立体選択的水素化、分子内アミド形成をワンポット内で行い、目的とする縮環型テトラヒドロイソキノリン中心骨格を構築した。今後は、今回確立した中心骨格構築法を用いて、quinocarcinの全合成を目指す。
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