本研究の目的は、格子QCDによる数値シミュレーションを用いてチャームクォークと反チャームクォークの束縛状態であるチャーモニウムの有限温度下での振る舞いを調べ、それらがどのように消失するかを調べることである。 先行研究では最大エントロピー法(MEM)を用いてチャーモニウムのスペクトル関数(SPF)が計算され、その振る舞いからチャーモニウムの消失温度が調べられたが、MEMにはいくつかの不定性や不明瞭な点があった。 そこで本研究では、これまでの研究とは異なるアプローチの仕方として、対角化の方法を用いた解析を行う。格子QCDの計算では、格子間隔や体積が有限なため、離散的なスペクトル関数のみが得られると考えられ、対角の方法はこのような離散的な量を計算する場合に適した方法である。 22年度は、対角化の方法を用いてSPFを計算する新たな方法を開発し、ダイナミカルなクォークの効果を無視したクエンチ近似の下でその有効性を確かめ、その結果を学会等で発表した。具体的な内容としては、ゼロ温度でのSPFを計算した結果、基底状態のSPFを高い精度で計算することができ、MEMで計算されたものと比較しても矛盾のない結果が得られた。さらに、励起状態に関してはMEMよりもより精度のよい結果を得ることができ、このことは非常に意義のあることだと言える。また、有限温度においてもSPFを計算した結果、少なくとも臨界温度の1.4倍の温度まで、J/Ψやηcといったチャーモニウムが消失する明確な証拠は得られなかった。この結果は、先行研究の結果とも矛盾のないものである。 今後は、より高温でのシミュレーションや、チャーモニウムのP波状態や励起状態についても解析を行うことが重要であると考えている。また、ダイナミカルなクォークの効果を取り入れだfull QCDでのシミュレーションも行っていく予定である。
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