研究概要 |
高齢者や生活習慣病患者における運動の実施が広く推奨されている.対象者に運動機能を十分に理解し,運動生理学的なエビデンスに基づいた運動処方を提案することは,我々の研究領域における重要な課題の1つであると考えられる.特に,これらの対象者では骨格筋の組織学的変性や神経障害が生じており,このことは運動時の神経筋活動をはじめ,代謝系や呼吸循環器系の応答にも影響を及ぼしていることが推測される.本年度は高齢者および生活習慣病の代表格であるII型糖尿病の患者における運動時の神経筋活動に関する基礎的知見を得ることを目的とした.本研究では,同一筋内の筋活動分布から運動単位の動員動態を推定することが可能である多チャンネル表面筋電図法という手法を用いた.高齢者を対象とした実験では,高齢者および若齢者各13名を被験者とし,発揮筋力の増加に伴う筋活動分布の変化を検討した.その結果,高齢者および若齢者の筋活動分布は発揮筋力の増加にともなって変化したが,その変化率は若年者で有意に大きかった。同一タイプの運動単位が筋内に群化して存在するといった加齢による骨格筋内の解剖学的特徴が,特徴的な筋活動分布パターンを生じさせたと推測した.II型糖尿病患者を対象とした研究では,II型糖尿病患者および年齢を合致させたコントロール群各9名を被験者とし,持続的筋収縮中の筋活動分布の変化を評価した.その結果,時間経過に伴って両群の筋活動分布は変化したが,II型糖尿病患者ではコントロール群と比して,その変化は小さかった.この結果は糖尿病性末梢神経障害に起因していると推測され,代謝系の機能不全に加え,筋活動分布の特性もこれらの患者における筋疲労の早期発現の一要因になっていると考えられた.来年度以降は,神経筋活動の最小単位である運動単位活動に着目した研究および特異的な神経筋活動が代謝系や呼吸循環器系へ及ぼす影響に関する研究を進める.
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