研究概要 |
植物の主要栄養素のなかでも糖(炭素源,C)と窒素(N)は基幹代謝を担う重要な因子であり,アミノ酸合成をはじめとした広範な代謝過程において深い関わりをもっている。よって,細胞内のC及びNの絶対量に加えて,両者の量的バランス「C/N」が重要なシグナルとなり,各代謝酵素の活性,さらには植物の生活環の重要な転換点が制御される。これら「C/N応答」の分子実態解明を目指し,これまでにC/N非感受性の変異体をスクリーニングにより単離し,その原因遺伝子が膜局在ユビキチンリガーゼATL31であることを同定した。そこでこのATL31に関する機能解析を行っており,そのユビキチン化標的タンパク質として14-3-3群の同定に成功し,Plant Journal誌において報告した(Sato et al,2011,Plant J,137-146)。これはC/N応答に関与するユビキチンリガーゼの標的を同定した初めての報告である。 また,前年度に取り組んだATL31相互作用因子の探索によって,14-3-3群以外に,多数の膜交通系に関与するタンパク質が同定されていた。当該年度は膜交通系タンパク質の個別研究により,ATL31がSYP121タンパク質とin vivoで相互作用していることを確認した。SYP121はQa-SNAREタンパク質であり,うどん粉病菌への抵抗性及び気孔開閉に機能していることが報告されている。ATL31もまた病害抵抗性への関与が示されていることから(論文投稿中),SYP121との相互作用が生理的に意味のあるものである可能性が高い。C応答やN応答が病害応答に関与するという報告がこれまでに多数あり,それらの報告においてもCとNのバランスが重要であることが示唆されている。ATL31とSYP121の解析が,C/N応答と病害応答の関与メカニズム解明への端緒となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度中に,ATL31及びそのホモログATL6の二重変異体が,光強度依存的に葉が黄化する表現型が得られた。 この黄化現象はC/N応答の異常によるものであることが考えられ,現在申請内容と並行して解析を進めている。 そのため,申請内容の当初の計画からはやや遅れているが,今後,ATL31を中心としたC/N応答制御機構解明のために,より包括的な理解が見込める状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
「11.現在までの達成度」にも記したとおり,at131 at16変異体に関して新たな表現型を発見した。この黄化現象は,ATL31によるC/N応答制御を理解する上でカギとなると考えられる。そこで,今後は現在遂行している研究計画と並行して黄化現象に関する解析も行い,C/N応答制御の全体像解明に迫る。
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