本研究の目的は「胸腺環境(多量のdelta-like ligand (以下、Dll)が存在)であってもB細胞に分化する血液前駆細胞(以下、Dll^R-Bp)」を同定し、Dll^R-Bpの生体内での局在を明らかにすることである。 Dll^R-Bpが細胞膜表面にB220、Cd19、ll7r、Flt3を発現し、B細胞受容体重鎖を発現しないことをすでに明らかにしている。またマウス生体内での局在に関しても、末梢血、胸腺には存在せず、骨髄に特異的に認められる細胞集団であることを示唆する結果も得ている。 平成23年度には、Dll^R-Bpの各種サイトカインへの依存性について解析を行った。Dll^R-Bpが過剰量のDll存在下でもB細胞に分化することから、Dll^R-BpはDllによって誘導されるNotchシグナルに対して抵抗性であると考えられるが、この抵抗性がどのような機構によって賦与されているかを検討する目的である。B細胞分化に重要であることが知られているKitl、Flt3l、ll7について検討を行った。 Dll^R-BpがDllを低発現するOP9上でB細胞に分化する際、ll7は必須であり、Kitlに対しては依存性と非依存性の増殖が認められた。また、Flt3lに対する依存性は、本分化誘導系では認められなかった。一方、Dllを過剰発現するOP9-DL1上でDll^R-BpがB細胞へ分化する時、OP9上と同様にll7に対する強い依存性が認められ、Flt3lの量はその増殖、数に影響を与えなかった。興味深いことに、Dll^R-BpのOP9-DL1上でのB細胞分花・増殖はKitlの受容体Kitに対する阻害抗体の添加によって99%抑制されることが分った。このことから、Dll^R-BpのB細胞への分化にはKitl、Kitシグナルが必須であることが示唆された。 KitシグナルはB細胞分化にとって必須ではないが、Dll存在下ではこれに対する依存性が劇的に上昇すると予想される。これまでにNotchシグナルとKitシグナルの明確な関連を示した報告はごくわずかであり、より詳細な解析による新たな事実の解明が期待される。
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