研究課題/領域番号 |
10J02008
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
中山 義敬 東京学芸大学, 連合学校教育学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 機械受容チャネル / MscS / 浸透圧応答 / 分裂酵母 |
研究概要 |
原核生物型機械受容チャネルMscSはバクテリアの細胞が低浸透圧ショックにさらされた際の細胞の膨張を感知して開口し、細胞内のイオン、低分子を排出することで破裂するのを防ぐ安全弁の機能を担う。近年、真核生物においてMscSホモログがオルガネラ膜上で機械受容チャネルとして機能していることが報告された。しかし、細胞内のオルガネラが機械受容チャネルを介して、物理的な力を感知する生理的な意義は明らかにされていない。 本研究では遺伝子操作が容易な分裂酵母のMscSホモログを解析することで真核生物のMscSホモログの生理機能を明らかにする。前年度に分裂酵母のゲノムから2つのMscSホモログ(Msy1およびMsy2と命名)を見つけ、これらの遺伝子破壊株を作製し、msy1^-msy2^-二重欠損株は低浸透圧ショックを与えると大きく生存率が低下することを報告した。これはMsy1とMsy2は低浸透圧ショック応答に必要な因子であることを意味する。分裂酵母は低浸透圧ショックを受けると細胞内Ca^<2+>レベルを上昇させることが知られている。Msy1とMsy2はCa2+結合に関与するEF hand like motifをもっているため、低浸透圧ショック時の細胞Ca^<2+>レベルの変化に関与する可能性が示唆される。 そこで野生型msy1^-単独欠損株、msy2^-単独欠損株、そしてmsy1^-msy2^-二重欠損株の低浸透圧ショック時の細胞内Ca^<2+>レベルの変化をCa^<2+>センサータンパク質であるCameleonとAequorinを用いて解析した。CameleonとAequorinのいずれの場合もmey1^-単独欠損株とmsy1^-msy2^-二重欠損株は野生株よりも有意に高い低浸透圧ショック時に細胞内Ca^<2+>レベルの上昇がみられた。この結果から低浸透圧ショック時の細胞内Ca^<2+>レベルの上昇はMsy1のはたらきによって、制御されていることが明らかとなった。 本研究により、分裂酵母のMscSホモログが小胞体膜上でCa^<2+>を介した低浸透圧ショック応答経路にはたらくことが示された。これは菌類の低浸透圧ショック応答において、小胞体でのMscSホモログのはたらきを介したシグナル伝達経路の存在を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子操作が容易な分裂酵母を用いて、2つのMscSホモログ(Msy1とMsy2)の遺伝子破壊株の作製に成功し、低浸透圧ショックに対する表現型を明らかにできたことは大きな進展である。これにより分裂酵母における生理的な役割が解明されつつある。また低浸透圧ショック応答時の細胞内Ca^<2+>レベルの変化にMsy1がかかわっていることを明らかにした。これらの結果からMsy1の分子機能の解明に向けても順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
MscS ホモログを介した低浸透圧ショック応答がどのようなシグナル伝達経路を形成しているのかを明らかにすることはMscS ホモログの機能を理解する上で重要な問題である。すでに遺伝子破壊株の取得に成功しているのでDNAマイクロアレイ解析により、網羅的に遺伝子発現の変動を比較することでMscS ホモログを介した低浸透圧ショック応答に必要な因子を同定する。得られた変動遺伝子の低浸透圧ショック応答における役割を解明することでMscS ホモログの介するシグナル伝達経路を明らかにする。
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