GPCRの一種であるケモカイン受容体CXCR4は、癌の増殖や転移、HIV感染などの病態への関与が知られている。所属研究室ではこれまでに強力なCXCR4アンタゴニスト活性を有する環状ペンタペプチドFC131を見出している。申請者は、活性への寄与が示唆されているD-Tyr-Argジペプチド結合周辺の構造活性相関研究に着手し、前年度までに4種類のアルケン型ジペプチドイソスターを導入した誘導体の合成とそれらの活性評価、及びNMRデータに基づく分子動力学計算による最安定構造の算出を行った。 本年度の研究において申請者は、最近報告されたCXCR4の共結晶構造とFC131のNMR構造を用いたドッキングシミュレーションを行った。さらに得られた結合構造に基づいて合成した4種類のFC131誘導体のCXCR4との結合構造を算出することで、活性の変化を合理的に説明可能な推定結合構造を得た。また、これまでに報告されているFC131誘導体の中で最も高い活性を有するFC122は、FC131とは異なる結合様式で受容体に結合していることを示す結果を得た。 上記と並行して、鉄キレート性環状ヘキサペプチド・デフェリフェリクリシンの構造機能相関研究に着手した。デフェリフェリクリシンは、3つの連続するアミノ酸側鎖にヒドロキサム酸を有する興味深い構造の環状ペプチドである。申請者は、Fmoc固相合成法に適用可能な側鎖にヒドロキサム酸を有する非天然アミノ酸ユニットを合成し、本アミノ酸ユニットを用いた汎用性の高いデフェリフェリクリシン誘導体の合成法を確立した。また、金属キレート性官能基であるヒドロキサム酸は鉄以外の金属にも配位することに着目し、合成したデフェリフェリクリシンの各種金属キレート錯体の探索を行ったところ、ジルコニウム及びチタンと配位した2種類の新規金属キレート錯体を同定した。
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