研究概要 |
本研究『樹木細根の成長・枯死・分解過程における生理的機能の解明』の目的は、根が発生してからの時間変化に伴う根の生理特性の変動を、根のエイジ(RootAge:発生してからの経過日数)と呼吸量の観点から明らかにすることである。本年度は、昨年度からの継続で、土壌中に設置した透明アクリルでコーティングした自動スキャナ装置を用いて、根の動態観察を継続した。同時に温度や含水率といった環境要因の連続測定も継続して行った。任意の頻度で根の自動撮影ができる画像測定システムを用いることにより、「いつ・どこで・どんな根」が成長あるいは枯死したのか、という詳細な根の時系列情報を獲得することに成功している。また昨年度に開発した、画像から根と土壌を抽出するプログラミングを用いて、根の動態を自動で解析することを可能とした。その成果は、国際誌に掲載された(Nakano, Makita et a1. (2012 : Journal of Plant Nutrition and Soil Science)。 本年度は、その画像データを詳細に解析し、短時間における根の動態と環境要因の関係を明らかとした。結果、1週間という短い期間の解析では、明確な環境要因との関係は見られなかったものの、温度よりも含水率に対応して根が伸張していることが明らかとなった。また、その根系の伸張速度は、すべて同調したパターンをとることが観察された。このことは、根系の成長動態は、環境要因に非常に影響をうけていることが示唆された。今後の課題として、他の季節における根の動態も解析し、日変化・季節変化もなども詳細に解析し環境要因に対する反応性の変化を根の回転速度(ターンオーバ)とともに考察する予定である。さらに得られた細根の生理的機能と生態的機能の関係を基に、森林炭素循環における根呼吸および分解呼吸の役割についての考察し、土壌呼吸量あるいは生態系呼吸量に対する根からのCO2放出量の寄与率をもとめたいと考えている。 以上より、本研究では、根が生まれてから枯死し、分解されていく過程、つまり「根の一生」を明らかにしようと努力した。この根の時間スケールを考慮した結果は、土壌呼吸に対する根からのCO2放出量の寄与率を正確に評価する際に、非常に重要な要素であることが示唆された。今後、土壌中における炭素蓄積量の不均一性、および土壌呼吸の時空間変動の原因を解明する上で、根の時間変化を考慮する必要があることを提案していきたいと考えている。
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