研究概要 |
前年度までにまず、バイオバンクジャパンに登録された前立腺癌患者4,584人、コントロール8,801人のDNAを用いて、2段階のGWASを行った。その結果、5つの遺伝子領域が新規に前立腺癌罹患に関わることを報告した。また、欧米より既に報告のあった31の前立腺癌罹患関連領域のうち、19領域については日本人においても再現されるものの、12領域については関連を認めず、前立腺癌罹患の遺伝的背景の人種差を確認した。 本年度においては、2段階GWASの結果P<1xE-4となった9領域について、新たに3つの独立した日本人サンプル(前立腺癌患者2,557人、コントロール3,003人)の解析を行い、GWASを含む計7,141人の患者、11,804人のコントロールのメタ解析を行った。この結果、3遺伝子領域が新たに有意に前立腺癌罹患と関連(P<5xE-8)していた。また、最近欧米より報告のあった2p11領域についても日本人において前立腺癌罹患と関連していることを確認した。 次に、新規領域のFine mappingおよび前立腺組織での発現解析を行い、2p11領域の癌罹患関連SNPのリスクアレルで前立腺におけるGGCX遺伝子の発現が低下していることを見出した。前立腺癌組織の免疫染色ではGGCXの発現は癌部において非癌部と比較して低下しており、GGCXの癌抑制作用が示唆された。GGCXはビタミンKを補酵素として働く酵素で、in vitroではGGCXがビタミンKと協調して前立腺癌細胞株の増殖を抑制しており、GGCXの癌抑制作用が裏付けられた。また、5p15領域では罹患関連領域がIRX4遺伝子のプロモーター領域に存在し、リスクアレルにおいて前立腺におけるIRX4の発現が低下していた。in vitroでIRX4は前立腺癌発症と関わるビタミンDの受容体(VDR)と相互作用して前立腺癌細胞株の増殖を抑制しており、IRX4-VDRの経路が発癌に影響を及ぼす新規の経路と考えられた。 以上のとおり、当該年度においては、標本数を増やして新規の前立腺癌罹患関連領域を同定した他、同定された領域から責任遺伝子を絞り込み、その機能解析を行った。
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