本研究の目的は、政治における公共宗教の役割と、それが国民国家の台頭に与えた影響を明らかにする事にあった。研究の対象は、世紀転換期から戦間期までのポーランド(ポーランド会議王国~第二共和国)とした。その理由は、国民国家の枠組みが流動化する中で宗教が果たした役割の変遷が顕著に表れた時代・地域であったと考えられるからである。19世紀末から1939年までの僅か半世紀で、ポーランドは行政的・地理的分割状態から第一次大戦後の領土変更を経て主権国家として統一された。しかしその領域にはロシア系、ドイツ系、ユダヤ系をはじめ多くのマイノリティ集団が含まれ、宗教的にもカトリック、プロテスタント、東方正教、ユダイズムなどが重層的に存在していた。政治的ナショナリズムを標榜する各集団は、信仰というモチーフや教義をとりこみ、また同時に、宗教の側もナショナリズムと共にある事で生存を図った。 現段階での成果として、前年度までに取り組んだテーマ「ポーランドにおけるシオニズムの析出」を深化させ、「世紀転換期ポーランド・シオニズムにおける空間概念」というタイトルの論考にまとめた(『東欧史研究』へ投稿、修正作業中)、また、空間概念の理論的整理を兼ねた書評「板橋拓己著『中欧の模索:ドイツ・ナショナリズムの一系譜』創文社、2010年」が『境界研究』第三号に掲載された。2012年10月には日本国際政治学会のパネル「宗教、国際政治、ナショナリズム」において報告を行い、近現代のポーランド社会においてカトリック教会が果たした役割を俯瞰すると同時に、同国出身のローマ法王ヨハネ・パウロ二世と「宗教間対話」の試みを取り上げ、「普遍教会」の代表たる宗教者が政治的アクターとして果たした役割を再検討した。同年11月には福岡=釜山で行われた国際会議BRIT2012において報告し、A.ハルトグラスの思想分析を元にシオニズムの多義性を論じた。
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