研究課題
これまでの研究では、既存の作用機序とは異なるTGF-βシグナル伝達経路阻害化合物を取得することを目的に、異常修飾トリプトファンを含有する新規天然有機化合物tryptopeptin A (1)と他二種類の類縁新規化合物を発見し、その平面構造を決定した。本年度は、以下の2点の研究について順次展開した。1.tryptopeptin Aの量的供給を目指したStreptomyces属放線菌代謝産物の解析最も切れ味鋭い生物活性を示した1は放線菌抽出物に0.0003%ほど含まれる超微量成分であった。その完全な化学構造決定には、適切な誘導体化が必要であり、そのためには多くの化合物量が必要であると考えた。そこで、本放線菌の大量培養および培養条件の検討を行った。ところが種々検討を施しても、以前の方法より収率向上させることは困難であり、未だ1を多量取得することには成功していない。一方、本過程においてtryptopeptin類の新規類縁化合物を新たに2つ単離することに成功した。各種機器分析による解析にてその平面構造を決定した。2.全合成によるtryptopeptin Aの構造決定放線菌抽出物からの1の量的供給が困難であると判断し、全合成することを計画した。1の全合成が達成できれば、その完全な化学構造を決定できるだけでなく、全合成における知見はtryptopeptin類合成誘導体による構造活性相関研究とその後の標的分子同定、作用機序の解明に役立つ各種ケミカルプローブの合成にも役立つことが期待された。各種検討の結果、1と同一の平面構造をもつ化合物1aを合成することに成功した。天然物、合成物の物理化学的性質の比較を行ったところ、合成した1aは天然物1と完全に一致することが明らかとなり、これらが全く同一の分子であると結論付け、1の化学構造を完全に決定することに成功した。以上の成果から、tryptopeptin Aが合成により供給可能となり、その作用機序の解明を目指した研究へと展開する道が開拓された。
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