本研究の目的は、現在に至るまで研究の空白域となってきた戦間期日本における高級船員の実態を商船教育機関における体系的な人材養成、海運企業内での処遇、企業の枠を超えた需給関係など、多角的な視点から解明することである。平成22年度には、当時の主要な海運企業であった三井物産船舶部における高級船員の人事体系・賃金・労働実態、1914年から1938年に至る高級船員の需給関係について、それぞれ雑誌論文として公表した。また雑誌論文では充分に解明することができなかった海運企業における退職給付について、大阪商船を対象とした事例研究を進め、学会報告を行った。さらに(1)かつての商船学校所在地を中心とする地方の公立図書館に所蔵されている商船教育関連資料の収集、(2)中堅海運企業における高級船員の人事・労務管理に関する資料の収集を実施した。(1)については、佐賀県立図書館で佐賀商船学校に関する資料を閲覧し、同校が1930年代に廃校となった経緯を調査した。高級船員の需給が極度に逼迫した第一次大戦期には、船員出身の教員が海運企業に転職し、教育現場に混乱が生じていたことを確認した。函館市中央図書館では函館商船学校に関する資料を閲覧し、卒業者の動向を把握した。(2)については、市立小樽図書館と函館市中央図書館で大阪商船の有力な関連会社であった北日本汽船株式会社に関する資料を閲覧し、1930年代における同社の経営展開並びに親会社との人的なつながりを調査した。大阪商船から転籍してきた高級船員が重要な職務を担い、上層部分を占めていたことが明らかになった。
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