研究課題/領域番号 |
10J02176
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國谷 紀良 東京大学, 大学院・数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 新型インフルエンザ / 基本再生産数RO / 年齢構造化感染症モデル / 周期系感染症モデル / SIS感染症モデル / 感染症の無い平衡解 / エンデミックな周期解 / 関数解析 |
研究概要 |
新型インフルエンザ感染症の流行動態を記述し得る、より現実に即した数理モデルを構築し、その数学的性質を解明することにより、実社会での当該感染症の流行抑制ひいては完全駆逐のために有効な防疫策を得ることを目的とした研究を続けている。インフルエンザの流行動態に特異的な二つの特徴として、その年齢依存性(若年層の罹患率が高い一方で、高齢層の死亡率が高い)と流行の周期性(一年の間で流行のピークとなる季節が存在する)が挙げられるが、本年度は、それらの影響を同時に考慮しうる、年齢構造化周期SIS感染症モデルと呼ばれる数理モデルを構築し、その数学的性質の解明に従事した。 成果として、感染症制御の実践的な場においてその定量的な流行予測のために広く利用されている疫学上有名な指標である基本再生産数ROが、数学理論上の定性的な側面においてもその感染症の将来的な挙動を決定付ける重要な閾値であること、すなわち、そのモデルに対する基本再生産数ROが1以下である場合は、感染人口のサイズを表す解は感染症流行の無い状況に対応する平衡解0に収束する一方、ROが1より大きい場合は、地域において感染症が周期的に流行をし続ける状況に対応するエンデミックな周期解が一意的に存在する、という定理の証明に成功した。その結果は、当該感染症の流行抑制のために用いられる基本再生産数ROの重要性を、数学の理論的な側面から強く保証するものである。証明の際には、従来の手法に改良の施された関数解析的な手法が用いられ、その手法はより一般的な構造を持つ年齢構造化周期感染症モデルに対しても同様に応用可能であることが期待され、同分野の数学理論の将来的な発展に貢献しうるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に研究対象とした年齢構造化感染症モデルは、一般的な形を持つ偏微分方程式系で記述され、より現実の感染症流行に即したモデルとなる一方でその数学的解析はより困難なものとなることが知られている。現段階ではその理論的性質に関する一定の成果を得ることに成功しているため、研究は当初の計画通りおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現段階までに構築されている数学理論のさらなる完成を目指し、研究を続ける。考慮するモデルが数学的により普遍的な形となるに従い、そのモデルは当該感染症の流行の特徴を捉えるための様々な現実的な仮定に対応可能なものとなるため、そのような数学理論の完成は、感染症制御の実践的な場面での益に直結することが見込まれる。 しかしながら一方で、理論と実践の異分野間の溝は依然として深いものであり、今後は理論の専門家としての立場をより明確にしながら、国内外の研究集会等の研究交流の場に積極的に参加をし、両分野間の溝を埋めるために尽力する。
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