研究概要 |
本研究では、アスピドスペルマ/イボガ型アルカロイドの合成と構造多様化を目指した。両アルカロイド骨格は、生合成においてトリプタミン骨格にビニル基とジヒドロピリジン環が連結した共通の中間体から、様式の異なるDiels-Alder反応により構築される。そこで、生合成戦略を模倣した合成中間体を設計し、アルカロイド骨格の合成を行った。その過程でインドール環2位のC-H結合の直接変換反応と、ジヒドロピリジン環の効率的構築法を見出した。 まず、無保護のインドールを温和な条件下でビニル化する手法の開発を行った。トリプタミン誘導体に対し、触媒量の水銀(II)トリフラート存在下、種々のアリールアセチレンを作用させることでインドール2位が選択的かつ高収率でビニル化可能であることを明らかにした。 ジヒドロピリジン環は、多彩な反応性を示す有用な構造であるが安定性が低く合成法は限られている。本研究では、N-プロパルギルエナミンの遷移金属触媒を用いた環化異性化による合成を検討した。その結果、1価のカチオン性銅触媒とホスフィン配位子を用いることで、温和な条件下、高収率で1,2-ジヒドロピリジンを構築可能な独自の条件を見出した。 以上を基に、トリプタミンにビニル基とジヒドロピリジン環が連結した化合物を5工程で合成した。本中間体は加熱条件下ユニークな分子内環化反応をおこし、4環性の骨格を与えた。次にアスピドスペルマ/イボガ型骨格の構築を目指し、エステルが置換したビニル基を連結した中間体を設計した。トリプタミンより4工程で3級アミン中間体を合成し、共役付加に続くHofmann脱離によりビニル基の導入と同時にプロパルギルエナミンを構築した。銅触媒を用いる条件に付したところ、ジヒドロピリジン環化と分子内環化が連続して進行し、イボガ型骨格が得られた。更に、本骨格を天然物カサランチンへと導くことに成功し、保護基を用いることなく短段階(9工程)での全合成を達成した。
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